「ロードス島伝説 亡国の王子」著:水野良 出版社:角川書店

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★はじめに

英雄戦争を遡ること37年。新王国暦473年のこの年、ロードスでは歴史に名高い『魔神戦争』が勃発しました。

後に続く英雄戦争と邪神戦争とは大きく異なるのが、この戦いの本質はロードスの住人VS異界の住人だという点です。

英雄戦争も邪神戦争も、色々と事情はあってもロードスの国や個人の意図によって繰り広げられた戦でした。

しかし魔神戦争においては、魔界の住人である『魔神』がロードスの住人に災厄と混乱を振りまいた点が大違いです。


もっとも、話はそう単純ではありません。魔神と戦うどころか、魔神に与する者、魔神を利用しようとする者もいたのです。

無闇に恐れたり、逆に軽視し過ぎたり、国ですら国境や外交に縛られて身動き出来ない様です。人の心の暗愚の化身が浮き彫りにされたのです。

故に、魔神だけが魔神戦争の障害ではありませんでした。それでもやはり、最も恐るべきはロードス滅亡を画策する魔神の軍勢でしたがね。

しかし当の人間達は当初それを理解する術を持たなかったので、身内で争い、魔神は人間が操っているとまで考えていたのです。

それは魔神を利するだけでした。優れた智謀を持つ魔神達は、狡猾に立ち回って戦いの構造を本来の在りようから遠ざけたのです。


魔神達はカストゥール王国の召喚魔術師によって召喚され、モスの南部にある「魔神王の迷宮」に封印されていたのです。

モスの小国スカードのブルーク王は、ある理由があって娘のリィーナ姫を生贄に捧げて魔神の王である魔神王を蘇らせてしまいます。

ブルークはロードス統一の野心を持っていましたが、そのある理由魔神の軍勢によるロードス征服戦争を画策したのです。

しかしこれもまたある理由で召喚は失敗、魔神王はブルークに従いませんでした。そして彼は、魔神の最初の犠牲になったのです。

小説のプロローグに魔神に殺される猟師がいましたが、実は彼は最初の1人ではないのです。極めて初期の犠牲者ではありますが。


魔神王はそのまま南のドワーフ族の大集落「石の王国」を滅ぼします。それだけに止まらず、魔神達はロードスの攻略を開始しました。

そしてそれに対抗する為に、本編の主人公であるスカードの王子ナシェルをはじめ、多くの勇者・英雄達が魔神との戦いに身を投じていきます。

しかしそう簡単には魔神との戦いの態勢は整いません。先に述べたように、魔神に触発された人間達の様々な障害があるのです。

モスの連合騎士団や、各地から立ち上がった義勇兵「百の勇者」。彼らが魔神達との戦いの中心となっていきます。

魔神解放の真相、魔神との戦い、それに対する人間達の行動。それらは追々明かされていくでしょう。さぁ、魔神戦争の真実を明かそう


第T章 たちこめる暗雲

★1

全てはモスの小国スカード王国から始まりました。モスの南部に位置しますが、竜の盟約には入っていません

北の大国"竜の鱗(ドラゴンスケイル)"ヴェノンの属国のように見なされています。モスの事情と竜の盟約については、「王たちの聖戦」を参照。

ヴェノンは領土欲の強い国で、スカード領も狙っています。軍事力でスカードを上回り、唯一の陸路も地理の関係で塞いでいる形です。


それでもなおスカードが独立を保っていられるのは、石の王国「エールの誓い」という盟約を結んでいるからです。

スカードは特産品である極上のエールを石の王国のドワーフ達に輸出し、石の王国との交易を盛んに行っているのです。

だからスカードは経済的に極めて豊かです。優秀な傭兵を雇う事も出来るし、盟友であるドワーフ達の武力もあります。

正直な話、石の王国の武力はヴェノンを軽く上回ります。この頼りになる盟友の存在もあって、スカードは独立を続けてきたのです。


スカードの王ブルークは優れた手腕の持ち主です。このような小国を支えるには、王の実力が重要なのです。

また国民達が誇る、"太陽の王子"ナシェルという優れた王子がいますし、"月の姫"リィーナという美しい姫もいます。

建国から100年余り、スカードはとても平和でした。そしてこの質素ながらも幸福な平和がずっと続く事を、誰もが願っていました。

しかしある時、ブルークとリィーナが何処かへ姿を消します。それが悲劇の予兆であったと分かった時は、全てが手遅れでした。


ナシェル 16歳

ファイター7、セージ5、レンジャー3。本編の主人公。金髪の美しい少年(青年?)で、非凡な才能を持っています。

能力値ボーナスは上から3・3・4・3・3・4、本当に人間か?という数値です。しかし彼の才能はそんな数値で測れる物ではありません。

その才能の本質は人を動かす王の才能です。その才能にブルークは大きな期待を寄せています。その潜在能力はフォーセリア最高?

超英雄ポイント1というのが、彼が発展途上の英雄である証拠ですね。極めて礼儀正しい性格をしていて、最早完璧超人か。


ナシェルは父親と妹が謎の失踪を遂げて以来、まったく消息が掴めない事を気にしていました。

スカードは平和で小さな国ですから、正直臣下はあまり優秀ではありません。ブルークが極めて優れた為政者であったというのもあるでしょう。

宰相のヒューロ(61歳)と騎士団長のサイラス(30歳強)が文官と武官のトップです。能力はそこそこですが、今ひとつ覇気に欠けます。

ヒューロはオロオロしていて気が弱いようです。サイラスはそれなりに強いのですが、名誉を重んじる伊達男です。ロッドン伯爵夫人といい仲だとか。


痺れを切らしたナシェルは、真相を確かめようと石の王国へ向かう事を決断します。父王がいない今、彼の采配がスカードを左右します。

ナシェルは王族でありながら市井を丁寧に回るので、世間の情報にも詳しいです。最近石の王国と連絡がつかない事はとうに知っています。

それだけでなく、山から動物が大量に下りてきたとか、山頂が怪しく光っただとか、猟師が行方不明になっただとか、色々と知っています。

この行方不明になった猟師はプロローグにある魔神の犠牲になった人ですね。彼は狩りの最中に、猟犬ともども魔神に殺されたのです。


サイラスはブルークが、リィーナ姫をヴェノンのアロンド王子に会いに行かせたのでは、と進言しますがそれは違います。

アロンド王子はヴェノンの第三王子で、スカードを狙っているのも彼です。立場上、領土は自力で得ねばなりません。

だから以前ナシェルに求婚したりもしました。別にそういう趣味がある訳ではなく、昔のナシェルは女の子のように可愛かっただけ(笑)

ナシェルが男であると知ると、今度はリィーナを狙い始めましたが、彼女はハッキリ言いました。NOと(思い切り良すぎ)。

もっとも、そのアロンド王子の意思が、ブルークに今回の愚行を行わせた理由の一つであるんですが……まぁその内分かる事です。


名誉を重んじるサイラスは芝居がかった物腰でナシェルに反論したりしますが、ナシェルが理を持って説くと納得したようです。

一連の小さな事件が大きな事件の予兆だとしたら、今動かないとスカードの未来が危ないかもしれない。そして今はナシェルに指導権があります。

ナシェルは騎士団を率いて石の王国へ出撃する事を命令し、臣下たちは不動の体勢でそれに従いました。この威厳が彼の才能の片鱗です。


ナシェルは宰相のヒューロだけを謁見の間に残すと、宮廷魔術師と傭兵隊長の行方を尋ねます。それを聞くと、宰相はビクビクしだします

本当に気が弱いようですね。早い所隠居した方がいいんじゃないかな(苦笑)。しかしこの動揺ッぷりは只事ではありません。

何故ならば、宮廷魔術師と傭兵隊長はブルークの命令で地下牢に幽閉されているのです。彼らはナシェルにとっては師のようなものです。

この宮廷魔術師こそは若き日の"荒野の大賢者"ウォートであり、傭兵隊長は"赤髪の傭兵"ベルドでした。


この事実を知るとナシェルは急いで地下牢に向かいます。ナシェルは彼らをロードスの至宝として尊敬しているのです。放っては置けません。

しかし時既に遅く、2人は牢にいませんでした。牢屋には何ら特別な仕掛けがありません。魔法を使えば簡単に出れますね(苦笑)


牢には2人の幻影がいました。これはウォートが仕掛けた"プログラムド・イリュージョン"という幻覚魔術の呪文です。

6レベルの魔法ですが、この魔法はウォートしか知りません。普通の"イリュージョン"と違って、条件によって変化させられます。

幻影は最初こそ座っていましたが、ナシェルが牢に入ると立ち上がって喋りだします。そういう風にプログラムされていたのです。

用件が終わると幻影は消えました。接続時間は永続なので、放って置いても消えない筈です。多分拡大して消すようにプログラムしたんでしょう。

幻影は拡大する事でより多くの条件と変化をプログラムできます。上手くすれば無限ループですね(扉を開けたらA、閉めたらBみたいに)。


ウォートはナシェルに、王族として社会の表も裏も学ばせていました。この牢もその一つですね。罪人達との会話は重要な経験でした。

ウォートは生まれついた性格で罪を犯す者と、育った環境に影響されて罪を犯す者がいると言いました。

そして罪なくして罪人になる者もいるのです。別に未来を予想してた訳ではありませんが、相手が相手なのでそうとも思えなくはない。

そしてもう一つあるのではないかと思います。やむにやまれぬ事情で罪を犯す者です。ひょっとしたら、ブルークはこれかもしれない。


2人にはまだまだ教えて欲しい事があった上に、こんな非礼を働いてしまった事にナシェルは本当に残念そうでした。

何故ブルークが2人を幽閉したのか、娘を連れて何処へ行ったのか。謎だらけの現状を打開出来るかはともかく、彼は石の王国に向かいます。


★2

そのベルドとウォートですが、スカードの王城グレインホールドを脱獄して、北のマスケトの街にいました。

マスケトはヴェノン第二の都市です。かつてはスカードのように独立していましたが、竜の盟約締結後にヴェノンに併合されました。

盟約締結は259年で、併合はその2年後の261年です。それ以来、マスケトは王族の人間が太守になってきました。現在もそうです。


ベルド 27歳

ファイター11、レンジャー5"赤髪の傭兵"と呼ばれるロードス最高の戦士です。後にマーモの皇帝になりますが、今は傭兵です。

言葉足らずで自分の事をあまり語らないのでその心は掴み難い。闇を抱えているように思えますが、その闇こそがベルドの魅力とも思えます。

ただ、彼は自分の強さを確かめたがっている。強い敵と戦う事で自分の限界を見極めようと、認めようとしているように思えます。

その超英雄ポイントは何と20点。レベルも規格外の11だし、筋力と生命力も人間の限界の24です。正に超人じみた男です。


ウォート 31歳

ソーサラー/セージ11、ファイター/レンジャー2"荒野の大賢者"と呼ばれるロードス最高の魔術師です。超英雄ポイントは10点。

その知力はなんと26人間の限界を超える知力の持ち主なのです。性格的に少し捻た所がありますが、それは彼の幼少時代に関係あり。

各国に宮廷魔術師、宰相、軍師として雇われては解雇されるの繰り返し故に「荒野の」と呼ばれていますが、彼はこの呼び名が気に入ってる様子。

装備品の"ウィザーズ・スタッフ"魔力+3の強力なもので、これを含めたウォートの魔力はなんと18です。これもまた規格外です。

アラニアの賢者の学院の学長ラルカスが存命していますが、彼とどの程度力の開きがあるのかは謎です。多分そう変わらないでしょうが。


2人は見事に裏切られてこの有様なのです。ブルークは2人をナシェルの教育係と考えていたのですから。

剣と魔法の象徴のような2人に武術や学問を教えさせる事で、ナシェルの才能を最大限に引き出そうとしていたのです。

ベルドとウォートもまた、ナシェルの大器に期待していました。ブルークの人柄もそうですが、ナシェルの可能性に魅力を感じてもいました。

人間である以上確実に限界はある。しかしナシェルにはそれを感じさせない、大きな潜在能力がありました。

ベルドですら、5年後、10年後のナシェルには勝てないかもしれないと思わせたのです。いかにナシェルが傑出した才能の持ち主か分かります。


実はウォートは、ブルークと共にロードス統一の野心を適えるつもりでいたりもしました。それが見事に裏切られたのです。

ブルークは例のある理由魔神による征服戦争を画策し、独断で盟友であるウォートを幽閉し、それを問い詰めたベルドも幽閉したのです。

その時のブルークの様子は何かに憑かれたようでした。別に魔物に憑かれた訳ではありません。彼は自らの意思でそれを行いました。

しかし人に取り憑くものは魔物だけではありません。目的に固執する心によって、確固たる決意を固めていたのです。

もしウォートに魔神解放の考えを話したら、確実に止められますからね。不安要素は全て潰しておきたかったのでしょう。


危うく命を落としかけて2人は取るものも取らずにここまで逃げてきました。だから一見浮浪者かと思えるほど2人は汚い格好です。

酒場に入ったはいいものの、実は無一文だったりするのです。主人も薄々感づいているのか、しきりに2人を気にしています。

しかし2人の殺気のような雰囲気で誰も近づけなかったりするのです。給仕の少年なんてベルドのオーダーを聞いただけで泣きそうでした。


仕方ないのでこの場の勘定はウォートが魔法で何とかします。金を作り出す"フォルスゴールド"という魔法を使ったのです。

10gまでの物体を金に見せるという2レベルの幻覚魔術です。そう、あくまでも幻なのです。質量は変化しないので、物によってはバレバレ。

金を扱う商人とかなら試金石とかで見抜けるかもしれませんし、"センス・マジック"でも使えばやっぱりバレます。

とはいえ、使いようによっては大きくゲームバランスを崩しかねないので、普通の冒険者はまず習得出来ない魔法ですね。


ウォートによれば、やはり魔術には素養が必要なんだそうです。上位古代語によってマナに働きかける素養、でしょうかね。

人間の場合大体5人に1人ぐらいだそうですよ、思ったよりは多いですね。その人が上位古代語をマスターする頭脳を持たねば意味がないけど。

ドワーフやグラスランナーは、この素養が種族的に欠落してしまったのでしょうね。物質界に定着しきったからでしょう。

もっとも、ドワーフの技術は時に魔術に勝るとも劣らない事を実現させますがね。土を石に変えるという、陶器の作成も彼らの発明です。


ウォートはこれで小石を金に変えます。身なりとは裏腹なバブリーっぷりに、主人もピックリしてました。

さて、10グラムの金とはどれぐらいの価値があるかというと、おおよそ銀貨125枚程でしょうかね。

ワールドガイドによると、どうやらロードスでも大陸と同じように金銀交換比率は50:1のようです。

銀貨1枚は4gのようなので、金4gは銀貨にして50枚ほどです。ということは、金10gは銀貨125枚程ですね。

ワールドガイドの"イモレイト"の解説では金40kgで銀貨50万枚相当なので、やはりこれぐらいでしょう。


余談ですが、ロードスには金貨は2種類あります。銀貨10枚相当の小金貨と、銀貨1000枚相当の大金貨です。

ロードスでも金銀交換比率が50:1で、銀貨の重さが4gだとしたら、小金貨の重さは僅かに0.8gでしょうかね。大金貨は80g。

大陸の場合は金貨も銀貨も重さは一緒なので、金貨1枚はそのまんま銀貨50枚なんですよ。ロードスの貨幣はどうなってるやら。

それとも、現在の日本の紙幣のように、素材価値と額面価値に隔たりがあるとか?。この世界の貨幣ってそんな信用度高いんでしょうかね。


2人はとりあえずルノアナ湖に向かいます。ルノアナ湖にはウォートの研究室(塔)があるのです。

ルノアナ湖にはカストゥールの遺跡が多く眠っていますからね、研究材料には事欠かないのですよ。

今回ウォートは大量の価値ある魔術の本やアイテムを没収されたわけですが、研究室にはそれが問題にならない程の量があるとか。

ベルドは暫くは誰にも仕える気にはならないので、遺跡の守護者相手に戦おうかと思っています。また酔狂な事を(笑)

戦って、生き延びて、金を貰う。それが彼のライフスタイルです。しかし今は、自分の為に剣を振るいたい気分なのです。


勘定も払い、例の偽の金塊はこれから市場を流通し続ける事になります。誰かが見破らない限りはね。

「見破られぬかぎり、偽者と本物との違いは、何ひとつないのだ」

これは肝に銘じて置いた方がいい。何故ならば、これこそがこれからの戦いで重要になる訓辞だからです。


★3

アラニアの白竜山脈には3つの主人がいるといいます。一つは氷の精霊王フェンリル、もう一つは大地の精霊王ベヒモスです。

近年アラニアではこの二柱の精霊王が猛威を振るい、大豪雪と大地震という天災に見舞われました。これにより、多くの被害が出たのです。

これによってターバのマーファ大神殿も礼拝所が倒壊し、被災者達への救済も含めて、マーファ教団は深刻な財政難に陥っていました

マーファ教団では労働の奉仕や食料の寄進が多いので、ファリスやチャ・ザのように金銀を蓄えたりはしないのです。


そこでマーファ教団の高司祭ニースがそれを解決しようと、白竜山脈第3の主人、氷竜ブラムドのもとを訪ねていました。


ニース 17歳

プリースト(マーファ)11、セージ5、ファイター3"大地母神(マーファ)の愛娘"と呼ばれるマーファ教団の若き高司祭です。

この年で高司祭という重職に就き、それすら役不足かと思えるほどの高い能力を持ちます。マーファが遣わした最愛の娘だと信じられる程です。

マーファの如く深い慈愛の精神を持つ、紛う事なき聖女なのです。未来の最高司祭である事は確実視されています。

その知力と精神力は共に24(人間の限界)。そして11レベルの超英雄ポイント10点。正にロードス最高の司祭なのです。


ブラムドは「火竜山の魔竜」でも取り上げたように、太守の秘法を護る五色の魔竜の一体です。彼が護るのは"真実の鏡"ですね。

ニースはそんなものをピンポイントで狙っている訳ではありません。彼女はブラムドの護る大量の財宝で人々を救済しようとしているのです。

同じように財宝を狙う愚かな人間は過去に沢山いましたが、当のブラムドの前に倒されたのでしょう。だから彼はまだここにいるのです。

財宝目当てという点では彼女も同じかもしれませんが、彼女の場合は私利私欲の為ではありません。あくまでも、救済の為なのです。


それだけではありません。ニースはブラムドも救おうとしています。ブラムドにかけられた呪いを解こうというのです。

マーファの教えでは自然である事が重要です。呪いによって強制的にこんな役目をやらされているのは、自然ではありません。

それにブラムドは心優しい聡明な竜なのです。シューティングスターやナースとはその点が大違いです。

ニースが近づいた時、ブラムドは悲しそうに「それ以上近づけば殺さねばならない」と訴えてきました。彼も苦しいのです。


まずブラムドはブレスで威嚇してきました。威嚇とはいえ、食らったらタダじゃ済みませんがね。相手は14レベルの氷竜の老竜種ですよ。

ブラムドは呪いによってある範囲に入った者を攻撃するように強制されています。あまり近づくと問答無用で殺されますよ。

ニースはある程度の距離を置いて、ブラムドと対話します。そしてその会話によってニースはブラムドを解放したいと心から思うようになります。

やはりブラムドは優しい竜のようです。明らかに高い知性を持っていて、穏やかなものです。呪いで束縛されているのが可哀そうになってきます。


ブラムドに呪いをかけた人間が誰かは知りませんが、間違いなく恐ろしく達成値が高い"ギアス"?でしょうね。軽く20ぐらいありそう。

これを神聖魔法で解呪するには"リムーブ・カース"しかないでしょう。ニースの場合は僅かに2点で行使できます。

ニースの魔力は15、限界まで拡大して+6で21(完全版)。旧版ならぶっ倒れるのを覚悟で+11で26にもなりますね。


ニースは10人の神官を同行させています。祈りを唱和させてより強力にするそうですが、これって儀式でしょうかね?

儀式の場合は10人いれば+10にまでなります。ニース自身の拡大も含めて31、何とかなりそうな数値ではありますね。

一つ問題なのは、儀式には丸1日要するという点でしょうかね。どう見ても1日もかけてないんですよね(苦笑)


では"パワー・リンク"で精神力を借りたのかもしれません。8レベルの神聖魔法で、精神力の集積場を作ります。

その場合では完全ではやはり+6が精々ですがね。あくまでも使用するのはニースなので、彼女の限界以上の拡大は出来ない筈です。

もし旧版ルールだとしたら凄いですよ。仮に神官の精神力が平均の14で、内13点を集積させたら10人いて130点

130点余分に使えて、ニース自身の精神力は24で合計154点。1回に2点消費だから、なんと+76!!

ぶっ倒れないように少し残しても+75ですよ。自身の魔力と合わせて魔力90ですよ、これなら解けそうな気がしますね(笑)


もっとも、超英雄ポイントを使って自動的に成功(6ゾロ)にしてしまえばニース単身でも呪いは解けるんですけどね。

ニースの場合超英雄ポイントが10点もあるから、最大10回まで同じ事が出来ます。1度に五色の魔竜を全部救うのも可能ですね(無茶言うな)。

しかし相手は竜です。呪いの強制力は凄まじく、抵抗すると全身に激痛が走ります。ブラムドですら耐えられないような激痛ですよ。

激痛のあまりちょっと攻撃しようものなら、それだけでニースが死ぬかもしれない。本人は覚悟してても見ている方が冷や冷やします。


それでもニースは決意を翻しません。ブラムドにも耐えるように言うと、構わず近づきます。命知らずなのか、信仰心が強いのか。

そしてニースはブラムドの体に触れ、"リムーブ・カース"を唱えたのです。その瞬間、ブラムドの爪が振るわれました

ブラムドの爪は打撃点24。11レベルの装備品がクロースで2点止めたとして、11点ほど来ますかね。

生命力が18なので一撃では死にそうにありませんね。まぁ痛いものは痛いんですけどね。普通に考えてこんな少女が食らったら即死だし。

なお、防御で1ゾロって素通ししたとしても生命力−6ですね。生命抵抗が14なので、1ゾロ振らない限り生きてます


ニースは吹っ飛ばされて地面を10回以上転がりますが、生きていました。"キュアー・ウーンズ"で傷を治します。

ブラムド「娘よ……わたしは自由を取り戻した。感謝する、大地母神の従僕よ。古代王国の秘宝は汝のものぞ

見事に呪いは解け、ニースは竜を殺さずに竜の宝を得る事が出来たのです。聖女だからこそですね。初っ端から凄い事やってます。

ブラムドはニースに忠誠を誓おうとしますが、それは丁重にお断りします。ブラムドはニースの住僕ではなく、になったのです。

これにより、ニースは"竜を手懐ける者(ドラゴンテイマー)"という称号も得たのですね。"竜殺し"とはまた別の意味で頂点を極めた称号です。


神官達は歓喜の様子でニースに駆け寄ってきます。やはりニースは慕われているようですね。目の前で奇跡の偉業をやり遂げたのだし。

神官達は後の事は自分達でやるので、ニースには休むようにいってくれます。ニースは働きすぎですしね。

とある神官がニースは生き急いでいると遠慮がちに言いましたが、ニース自身それを否定し切れなかったりします。

最近のロードスでは各地に戦乱の兆しがあります。何か大きな事件が起こるのではないかと、誰もが不安に思っています。


ニースには未来が明るいとは思えない。だからこそ、出来る事を片付けようとしてるのでしょう。それが生き急いでいるように見えるのかも。

でもいい加減今日は休んでもいいと思いますけどね。今日はというか、いっそ一週間ぐらい休養しても誰も文句は言わないと思いますよ(苦笑)

こんな偉業をやっておきながら、明日からまた働こうとしているのです。高度な魂であればある程に、やる事は多くなるのでしょうか。


★4

現在の神聖王国ヴァリスはワーレンT世の治世です。今年で71になるこの王は、善政を敷いてきた神聖王国に相応しい善王でした。

しかし一つだけ、重要な問題があったのです。それは、ミノタウロスを王子として擁しているという点です。

これだけではさっぱりでしょうから、補足せねばなりません。事の起こりは10年前の新王国暦563年でした。


ワーレン王は442年に40歳で即位し、長い事子供に恵まれませんでした。しかし11年後の453年に、51歳になって男の子を授かったのです。

ヴァリスの王位は世襲制ではありません「灰色の魔女」参照)。世襲を嫌う為に、王子が王位に就く事は稀ですらあります。

だから王子は聖騎士か聖職者になる事が多いのですが、ワーレン王は王子を聖騎士に育てようとしていました。

50越えてようやく授かった子供です。ワーレン王は王子を溺愛していました。目に入れても痛くないとは、まさにこの事でした。


しかし10年前、王子が10歳の時に悲劇が起きました。ワーレン王が王子を伴って山野に狩りに出かけた時の事です。

王子のガードが甘くなった時に運悪くミノタウロスに遭遇してしまったのです。ミノは幼い王子に襲い掛かりました。

聖騎士達はミノタウロスに戦いを挑み、これに重傷を負わせて倒しますが、死者すら出るような激しい戦いだったそうです。


しかし、倒れた王子には頭がありませんでした。それどころか、腸を食い荒らされてもいたのです。食人のミノタウロスだったのです。

かくしてワーレン王は発狂しました。王子の死体を打ち捨て、ミノタウロスを王子として城に連れて帰らせたのです。

王子の死を受け入れられなかったのでしょう。都合のいい記憶を自分で作り出し、精神の安定を無意識の内に図ったのでしょう。


この大事件に王宮は揺れましたが、王子の事を除いてはワーレン王はいつも通りの様子でした。とても狂っているようには見えません。

国王の善政を知る人々も多く、王を擁護しましたが、ミノタウロスを保護するというのは神聖王国にあってはならない事でした。

そこで妥協策として、三角州に離宮を建ててミノタウロスを住まわせる事にしたのです。それが精一杯だったんですよ。


それ以来、王は普通に政治を行っています。しかし彼は王子が騎士修行で離宮にいるという事にしているのです。

そしてそれが果たされるまでは自分に会う事はないと、何とも都合のいい形で自己暗示をかけているのです。

それから10年、王子が20歳になったので、ワーレン王は王子に嫁を取らせようと考えました。再び王宮が揺れました。

今度こそ過ちを正そうと、ついに決断されたのです。王宮と教団が合同でミノタウロスを倒すと。


そこでファリス教団の高司祭ジェナートは聖騎士から1人、神官戦士から1人を選び、呼び出したのです。

ジェナートは今年36歳、「灰色の魔女」にも出ていますね。あの時は最高司祭ですが、今は高司祭なのです。

相変わらずレベルは不明ですが、"リザレクション"や"ジハド"は唱えられるようです。かなりレベルは高い筈ですよ。

きっと超英雄ポイントも持っているんでしょう。そしてレベルもかなり高い。ニース程ではないでしょうが、最低でも8はあると思う。


ファーン 25歳

ファイター10、セージ4。聖騎士団の騎士隊長を勤める、"白き騎士""百年に一人の騎士"と讃えられるロードス最高の騎士です。

高潔な精神に眉目秀麗な容姿、白銀の鎧がよく似合う金髪。聖騎士の見本のような騎士です。髭は生えてません。

次期国王として最も有力視されています。騎士として色々な意味で圧倒的な支持を受けています。性格は真面目の一言です。

騎士の規範として、禁欲的で生真面目過ぎる面もあるのか、ベルド曰く人生の楽しみを半分も知らない男です。多少自制し過ぎている感あり。

TRPGで聖騎士(パラディン)というのを演じると、やはり彼のようになる事が多そうです。


フラウス 17歳

ファイター/プリースト(ファリス)7。ファリス教団の神官戦士です。"至高神(ファリス)の聖女"。毅然とした態度と頑強な信仰心を持ちます。

凛とした態度と均整の取れて肉感的な肢体は、ニースとは違った意味での聖女である事を思わせます。金髪を翻してメイスを振る様子は勇ましい。

5年前、農場で働いていた(実はファーマー1)時にファリスから神託を受けます闇の中の英雄を光の下へ救い出すという啓示でした。

それ以来、彼女は学び、鍛え、祈り、僅か5年でこの実力を身につけたのです。畏れ入るしかない、強固過ぎる信仰心です。


ミノタウロス退治に選ばれたのはこの2人でした。ジェナートがファーンを選んだのは、彼を次期国王に推すという意図もあるでしょう。

現在のジェナートは形式主義に陥って腐敗した教団を立て直そうと、様々な改革を行っています。あまりにも徹底しているので警戒されるぐらい。

ヴァリスの国王とファリス教団の最高司祭は相互関係があることが多い。現在の最高司祭もワーレン王の支持を受けていたそうですし。

別にファーンもジェナートも権力を欲してはいませんが、それでもやはり資格のない者に責任ある地位に就かれる訳には行きません。

ヴァリスの未来を考えるなら、ここで手柄を立ててワーレン王と教団の腐敗で揺れるヴァリスを立て直す必要があるでしょう。


2人ともこの件は承諾しました。フラウスは花嫁として、ファーンはその護衛の騎士として離宮に赴く事になります。

フラウスには花嫁衣裳まで用意されています。ジェナート曰く、「放っておけば一生着る事がなさそう」だそうです(苦笑)

フラウスは心をファリスに捧げているので、殿方と結ばれるつもりはないそうです。別にファリスは結婚を否定しちゃいないんですけどね。

ジェナートは形式的には再婚になるが、ファーンに貰ってくれないかと訪ねると、ファーンは意外な事に考えておきますと答えます。

ファーンも今年で25だし、お嫁さんを貰ってもおかしくはないですよ。ジェナートが勧めるなら間違いないし。フラウスは驚いてましたが。


2人は急患の治療に赴くジェナートの前を辞し、連れ立って歩きますが、どうもファーンの方が天然っぽい

フラウス「この大神殿に住む女性神官で、あなたの名を知らぬものはひとりもいないようですね」

ファーン「大神殿には、週に一度の礼拝を欠かしてはおりませんから……」

いや、そうじゃなくて、女性人気が高いと言いたかっただけなんですけどね。そんなだから結婚できないのかも(笑)


フラウスはファーンに色々な事を語りますが、最も重要な事はロードスは英雄の下に統一されるべきだという考えです。

それじゃあ大戦になりますけどね。ロードス全土を揺るがす、大きな戦争に。皮肉な事に戦争は37年後に実現するわけですが。


現在のアラニアとカノンは貴族が政争を繰り広げて退廃し、汚職が横行しています。ヴァリスの問題は言わずもがな。

マーモは触らなければ問題なさそうですが、抗争を続けるマーニーとローランの自由都市、風と炎の部族など、問題はあります。

またモスでは竜の盟約があるから攻めたら大変な事になるし、ライデンの大商人達も多くの傭兵を雇っています。

これを統一しようとすれば武力に頼るしかない。しかも、多大な犠牲が出る事は分かりきっています


フラウス「英雄は、かならず現れます。そして、このロードスの救世主となるはずです

それは神託に適う事なのかどうか。何となく、ファリスの意図している事とは少し違うという気もしますが。

確かに英雄は現れるかもしれない。しかしその英雄の果たす事は、果たしてロードス統一なのか?


ファーンとフラウスはその後離宮に赴き、過ちを正します。しかし帰還した彼らに待っていたのは衝撃的な知らせでした。

こうして役者が舞台に揃いつつあります。魔神が動き出し、ロードス全土が揺れる時が近づいています。


第U章 王子の決断

★1

ロードス島には大きく二つのドワーフの大集落があります。南西部の石の王国と、北東部の鉄の王国です。いずれも地下の街です。

鉄の王国はアラニアのターバの更に北の白竜山脈の山中に存在します。ドワーフの技術を注ぎ込んだ広大な都市は見事の一言です。

石の王国はモス最南部のスカードの更に南にあります。その更に南にあるのは、カストゥールの遺跡と"空の上なる湖"ホルスぐらいです。

地下道は無数の支道と繋がり、ロードスの地下を網目状に縫っています。迷宮のように入り組んでいて、人間では迷うのがオチです。

この地下道はドワーフの大隧道とよばれ、なんと両王国は地下の横断路で連結しています。当然これを使用して国境を越える事も可能です。


しかし、既に石の王国は存在しません。およそ1万の人口を誇ったこの王国の民は、魔神によって皆殺しにされたのです。

魔神の大軍勢は突然湧いてきました。全くの奇襲でした。魔神の中には優れた軍師がいるらしく、まず中央の大道を制圧されます。

こうなってはドワーフ達には組織的な抵抗が不可能です。支道に分断されたドワーフ達は、各個撃破されてしまいます。


無論彼らも無抵抗ではいません。女子供老人までもが武器を取り、魔神たちに対して徹底抗戦を試みました。

地下道のいたる所にある罠や隠し扉、偽扉も使用し、北の同胞へ通じる大横断路などの通路も封鎖しました。

およそ2000の戦士団も戦いましたが、およそ10日で彼らは全滅します。人間達の犠牲が出ないよう救援は求めず、使者だけを派遣しました。


これだけのドワーフが死力を尽くしたのです。魔神の軍勢にもかなりの被害が出ました。そして1人のドワーフがまだ生き残っていたのです


フレーベ 116歳

ファイター10。一般技能はクラフトマン(ウエポンスミス)7、キング5。石の王国の王である"鉄の王"です。

116歳というのは種族的には中年ぐらいで男盛り。白い髭が老けさせて見せますが、これはドワーフの特徴なので若者も一緒です。

王としての責任感が極めて強く、ドワーフ特有の心身の頑強さも相まって、まさに"鉄の王"と呼ぶに相応しいフォーセリア最強のドワーフです。

装備はミスリル製魔力+2のハルバードとプレートメイル生命力28で精神力32という、人間ではありえないドワーフ最高の数値を誇ります。


フレーベはこの10日間戦い通しでした。数多くの魔神を配下の戦士と共に葬りますが、今となっては生きているのは彼だけです。

ドワーフの頑強さは有名ですが、魔神はそのドワーフ以上に生命力豊富な種族です。その魔神と大差ないフレーベはあまりにも頑丈過ぎでした。

多くの民が死んだのに、彼はその強さ故に生き残ってしまったのです。責任感の強いドワーフにとって、この事実は胸を締め付けられます。

民が死んで王だけが生き残る。それは辛い、無念でもある。二度と帰らない民、二度と飲めない酒、それがフレーベに涙すら流させます。


フレーベはかつての王国を当てもなく彷徨っている時に、偶然遭遇した魔神を一瞬で葬りました

敵は3匹、5レベル下位魔神ザルバードと、魔界の猟犬ヘルハウンド×2でした。魔神の軍勢の中では下っ端ですよ。

ザルバードはガーゴイルのモデルにもなった魔神で、赤い体と瞳を持ち、翼を生やしています。炎を吐き、暗黒魔法を3レベルで使います

ヘルハウンドはザルバードと同じく5レベルです。大型の黒犬といった姿をしていますが、やはり炎を吐く点が魔界生物という感じですね。


普通の人間には十分怖い相手ですが、10レベル戦士なフレーベにとってはお話にならない雑魚ですね。

両者の炎の威力は竜のソレに比べると花火のようなものですね。抵抗の目標値はたったの12、精神抵抗15のフレーベなら1ゾロらない限り抵抗。

ダメージもたったの打撃力10+追加ダメージ5。抵抗されたらダメージロールで6ゾロ振っても冒険者レベルで止めてお釣が来ます。

かといって白兵戦を挑んだ所で、打撃点は12とか14です。フレーベはレベルと鎧だけで12点も止める。防御ロールで2点以上出せば無傷。

フレーベの筋力は20で鎧はミスリル製ですから、防御力は低く見積もっても30。これなら1ゾロらないかぎりやっぱり無傷。


フレーベはまずハルバードを一閃して犬っころの首を撥ねます(2匹とも)。続いてザルバードも軽く屠ります。

ザルバードはジャベリンなどを投げてきますが、カキンと弾きます。そして無造作に投げ返したジャベリンが敵を貫通して天井に刺さります

フレーベの追加ダメージは武器を無視しても13もあります。きっとスガシャァァアア!!って感じで敵は死ぬんでしょう。

やはり強い、圧倒的ですね。この程度の雑魚ならどうにでもなりそうですね。暗黒魔法を使ってもやっぱり抵抗破れそうにないし。


しかしやはり数は脅威なのか、多少なりとも魔神の暗黒魔法で傷ついています。何度もやれば抵抗にも失敗しますよ。

フレーベの戦いは、圧倒的な強さを感じます。大地の妖精の強さに満ちています。しかしその境遇を考えると、何処か哀しい強さです。

それでもフレーベは歩き続けます。1匹でも多くの魔神を道連れにする為に。それが彼にとっては最後の王の仕事なのです。

やがてフレーベは北門(スカードのある方)に辿り着き、そこで魔神の群れに遭遇します。フレーベはここを死に場所と定め、戦い始めます。


★2

その頃、ナシェルは騎士や兵士を率いて石の王国の北門にまで来ていました。道中ドワーフの死体なども発見し、緊張が漂います。

きっとフレーベが出したスカードへの使者ですよ。剣や牙・爪で殺されたように見えますから、やっぱり魔神でしょうね。

ナシェルが率いる騎士達は若いのが多く、実戦経験なんてなさ気です。一応次代のスカードを担う若者達なのですがね。


北門の傍まで来たナシェルは、そこで魔神の群れと、それらと戦うドワーフ(勿論フレーベ)を発見します。彼にとって魔神は異形の怪物です。

見た所、この場にいるのはザルバードに加え、6レベル下位魔神ラグナカング7レベル下位魔神マリグドライなどですね。

タグナカングは直立した竜のような姿をしていますが、竜ではありません。翼を生やし、暗黒魔法を3レベルで使用し、牙に毒もあります。

マリグドライは上半身がミミズク、下半身が山羊のソレです。魔法や毒は備えてませんが、幻覚を使用するのが特徴です。


あと10レベル上位魔神ケプクーヌもいるらしい。恐らくはこの場にいる下位魔神達を束ねる小隊長のようなものでしょう。

ケプクーヌは山羊の頭と二又鉾が特徴的です。上位魔神の中でもトップクラスの魔法の使い手で、古代語魔法/暗黒魔法8レベルです。

魔神の中では慎重な方で、負けそうならトンズラします。もっとも、勝てると思ったら容赦なく攻撃してきますがね。


あとマリグドライですけど、もしかしたらこれマリグドライじゃないかもしれません。下手したら魔神でもない。

では何かと言えば、魔界の獣「魔神獣(アザービースト)です。魔神達が創ったらしい生物で、物質界の動物を合成したような姿をしています。

ルールブックには4レベルとして載っていますが、その形態と能力には個体差があると思われます。魔神戦争では見かけませんけどね。


そう、魔神獣は魔神戦争には加わってないとされています。元から使わないと封印されてなかったのかもしれませんね。

でもここに出てくる鳥の頭をした魔物というのが、どうにも引っかかります。鳥頭の魔神といえば、マリグドライぐらいです。

しかし登場するのはその描写だけで、戦闘シーンも載ってません。だから、もしかしたら魔神獣なのではないかと、ふと思ったのです。

もっとも、他のシーンではやっぱり魔神獣は見ませんから、やっぱりマリグドライだと考えた方が無理がなさそうです。


ナシェルは配下に素早く命令を下します。すると、あっという間にランスを構えた騎士が横一列に並び、合間からも狙撃準備を整えます。

意外な事に、彼らはちゃんと訓練を積んでいるようですね。突然の事態にこれだけ動ければ十分ですよ。

かくしてスカードの騎士達のチャージで戦闘は始まります。彼らは勇敢に戦い、一匹ずつ確実に魔神を倒していきます。

ナシェルもザルバードの炎に突っ込んでランスで串刺しにするという荒業を披露。初陣とは思えない戦いです。


しかし、最後に残ったケプクーヌがどうにもヤバいです。殺気が凄いというか、魂が昏いというか、突っ込むのは危険に思えます。

ナシェルが下位古代語で「去れ!」と叫ぶと、ビビリのケプクーヌは"テレポート"でさっさと逃げます。相手がビビリで助かりましたね。

ケプクーヌに限らず、魔神の言語は下位古代語です。まぁ魔神は知性が高いからロードス共通語ぐらいすぐ覚えられそうですがね。


騎士の1人が「命令があったら一刀で切り伏せた」と調子ずくと、ナシェルは「二度と戦場に出ない方がいい」と辛らつに返します。

ベルドも言っていた事ですが、互いの力量を量れなければ生き残れない。あの10レベルの魔神のヤバさを実感出来ないのは致命的かもね。

傷ついたドワーフ(フレーベ)は、騎士見習いが藁や旗で作った即席ベッドに横たえます。なかなか心得た騎士見習いですね。

そしてその兜を取って、彼が"鉄の王"フレーベであることを知って、一同は驚愕するのですね。鉄の王国が落ちたのだと悟ったのです。


かといって魔神がいるであろう鉄の王国に入るのは自殺行為です。魔神には標準装備の暗視があります。闇の中では地の利は敵にあります。

ナシェルはフレーベを保護し、配下を率いてスカードへ帰還します。この緊急事態にどうすればいいやら悩みながら。


★3〜5

城に帰ったナシェルはウォートの残した書物を貪り読み、敵は異界の住人である魔神である事を知りました。

ナシェルはセージ技能も持ってるんですが、あの場では《怪物判定》に失敗したんでしょうね。魔神であるとも分からなかったようだし。

ナシェルは5レベルで知力ボーナス+4なので基準値は9。あの場にいた中で最も知名度が高いケプクーヌですら16です。分かりそうですけどね。


魔神は魔界と呼ばれるもう一つの物質界に住む肉体のある存在です。ただし種族的な肉体と知性の高さは人間以上です。

しかしこの世界の魔神の体は仮初のものです。実態のある幻覚のようなものなので、死んでも腐らずに、放っておくと消えるのですよ。

魔界はファラリスによって創られた世界であるとも考えられていて、魔神達の使用する暗黒魔法もほとんどファラリスのそれです。

自由の信徒でありながら、魔神社会には絶対的な上下関係があります。魔神王を頂点とするピラミッド型の社会ですね。


魔界を発見したのは召喚魔術の門主アズナディールでした。彼は魔界を発見し、魔神の召喚・使役を可能にした最高の召喚魔術師です。

魔神の軍勢は魔神王に隷属しているので、その魔神王を従えればその軍勢も自動的に主人である人間に従います。

魔神はカストゥールとは異なる魔法文明を持っています(古代語魔法と同種ですが)。その文明も利用し、魔神は様々な事に使われます。

労働者、技術者、傭兵として彼らは酷使されます。都市を建設し、カストゥールの敵対者であった巨人族を滅ぼします。

そして魔神達はその有能さ故に送還される事もなく、牢獄のような空間に封印されます。世界中に複数ある内の一つが、このモスにあったのです。


そういった事は分かったものの、現状は何一つ変わっちゃいません。魔神達の脅威が分かっただけで、解決策は見つかってないのです。

魔神に攻められたら一堪りもない。それは誰も反論できない事実です。では、スカードはどう対応すればいいか、それが問題なのです。

王宮では会議が開かれますが、有用な意見は出ません。ヴェノンに救援を求めても、石の王国がない以上スカードを救う利益はない

ヴェノンは領土欲が強く、国王ヤーベイは老獪な王です。メリットのない事はしませんよ。スカードが落ちて魔神が来れば、竜の盟約を発動するまで。


ナシェルは色々考え込みますが、スカードを救う術は思い浮かびません。石の王国がない時点でスカードの独立性は失われましたし。

もし魔神を率いているのが人間だとしたら交渉の余地はあるかもしれませんが、きっと向こうは条件を譲渡する気0ですよ。

武力で圧倒的に勝ってますからね、スカードを言いなりに出来るはずです。そいつがいたとして、じゃあ皆首切って♪とか言われたらお終いです。

王族として、亡国の危機には命を捧げて領民を護る覚悟がナシェルにはあります。しかしそれすらも、この場では意味を成さないかも。

石の王国のように国家総動員で徹底抗戦という手もないではないですが、人間にそんな犠牲的精神を期待するもんじゃありません。


思い悩むナシェルは、スカードお抱えの薬草師タトゥスに薬を飲まされます。彼の薬草学の知識はウォートですら一目置くとか。

タトゥスは幼い頃からナシェルを知っていて、今年で41歳になります。彼の作った薬は魔法にも似た力を発揮するとか。

病気は治す必要がない、かからなければよい。これが彼の持論であり、彼の薬は体質を改善したり健康を維持するものもあります。

神聖魔法を使えば病気とかは治せるかもしれませんが、こういう予防的手段には使えませんからね。まったく、凄い薬草師ですよ。

恐らくは一般技能:ハーヴェスト10とかあるんでしょうね。ナシェルにとっては幼い頃からの主治医のようなものかもね。


タトゥスがナシェルに作った薬は泡を立てる灰色で緑色なものでした。うっかり床にぶちまけると妖怪人間とかが生まれそうです(笑)

これも多分、病気を予防する事を忘れないようにという配慮でしょう。苦い薬を飲みたくなければ健康に気をつけろという、もっともな事です。

ナシェルは薬を飲むと引き続き悩みますが、実はこの薬が睡眠薬半日ほどグッスリ寝ます。精神的に疲れたナシェルへの配慮ですよ。


目を覚ました頃にはフレーベも起きていました。なにやらドワーフ語で喚きながら、ベッドから体を起こそうとしています。

しかし侍女に押さえられて体を起こせません。2人がかりとはいえ女に押さえつけられるなんて、衰弱し過ぎですよ。

ナシェルはフレーベに尋ねます、魔神からの要求があったのか、敵の数はどれぐらいなのか。酷な事ですが、聞かねばなりません。

フレーベは魔神への怒りと憎悪に燃えているようですが、同じ王族であるナシェルの立場を分かってくれたのかポツポツと語り始めます。


語り終えたフレーベは城を出て国に戻ろうとします。しかし今となっては犬死にしかなりません。辛い事ですがね。

ナシェルはフレーベにエールを差し出します。スカード産の極上のエールです。フレーベが二度と飲まないと思っていたエールです。

ナシェルは「エールの誓い」を引き合いに出して、フレーベを城に止めて協力を願ったのです。酷い事をしてると承知の上で。

最近スカードはベルドとウォートを失いました。この緊急事態でこれ以上魔神とも戦える人材を失う訳にはいきませんからね。


フレーベ「いつ飲もうとも、この国の麦酒(エール)は旨いわ……。わしの民は、二度とこの酒を飲むことはできぬのだ

このセリフを読んだ時、私は不覚にも涙腺が緩みました。たった一言でフレーベの哀しみの深さが伝わってきたようで、胸が痛くなりました。

ナシェルはスカードを救う知恵を借りようとしますが、そんなものフレーベにだって浮かびやしません。


フレーベ「わしは、国も民も失った。ただ、命ばかりが残っている……」

タトゥス「命があれば、何かができます。失えば、何もできますまい

命があれば何かができる、か………。ナシェルの言う通り正論に思えて欺瞞にも思えます。当事者の絶望感を考えると、果たしてどうかな、と。

今のフレーベは生きる事が辛く、死ぬ事が容易い。民を失った大きな喪失感と絶望から立ち直るのに、他人の言葉なんて役に立つのだろうか?

他人を励ますにはいい言葉かもしれませんが、死にたいとすら思うほど思い詰めた相手にとってみたら、慰めですらないのかも。


ナシェル「スカードを、救うことはできない。魔神がせめてきても、攻めてこなくても

ついにナシェルは認めました。石の王国が滅びた時点でスカードの自立性は失われたのですからね。しかしそれは決して諦めの言葉ではない

魔神が攻めてきたら100%滅びる、攻めてこなくてもヴェノンがスカードを併合しようと出兵すれば100%敗れる

前者を最悪の結果とするならば、手段はあります。スカードを救う手段ではなく、スカードの歴史を閉じる以後の手段をナシェルは考えます。

結局スカードを救う手段はなかったのです。ナシェルはそれを認めながら、なおその次を考えられるのです。若干16歳で立派としか言えません。


こうしてナシェルは、ヴェノンにスカードの併合を願い出ると臣下達に発表しました。流石に動揺が走りますね。

魔神が攻めてきてからでは遅い。その前に併合してしまえばスカードはヴェノン領、ヴェノンが魔神と戦う理由が生じます。

そしてスカードの領民を守る義務も生じます。最悪、領民をマスケトやヴェノン(王都)に逃がす事も出来ます。

突然のショッキングな発表に、サイラスあたりが異議を唱えますが、ナシェルがやはり理をもって説くと理解します。

それにしても、自らの誇りを守る為にナシェルを試した態度を取るのはある意味凄い。それをもっと別の方へ働かしてくれたら(笑)


騎士達の身の振り方も考え物ですが、何とかなる。これから戦があるだろうし、有能ならば仕官出来るかもしれないし。

生きていれば何かが出来る。魔神が攻めてきて殺される事に比べれば、職を失って逃げる方が幾らかマシです。

これも支配者階級の宿命です。自らの職能で生きる糧を得られる農民や職人、商人とかとはその辺が大違いですね。

貴族や騎士が生きられるのは、そういった人々からを得られるからです。自らを統治者と認めてくれる領民がいればこそ。


ナシェルは宝物庫を開いて領民や騎士に分配し、当座の財産にさせる事にします。騎士にとっては失業保障のようなもの(苦笑)

ナシェルはヒューロを伴ってヴェノン王ヤーベイに会談を申し込み、予定通り併合を願い出ます。これは当然受理されます。

その日の内に暗殺される危険を避けてナシェルは姿を消します。ヒューロが「ナシェルは最近正気ではなかった」と適当に誤魔化してね。

ナシェルは身分を捨てて一介の戦士になってでも戦うつもりです。今は背を向けますが、きっとここに戻ってきますよ。

そしてスカードには第三王子のアロンドが赴任してくるわけです。彼はタナボタに喜びますが、程なく魔神が姿を現します


第V章 蠢動する魔神

★1

スカード併合から早5日、ナシェルはフレーベとタトゥスだけを伴って、神聖王国ヴァリスの首都ロイドへ向かっていました。

あまりにも消耗が激しいフレーベを手っ取り早く"リフレッシュ"で全快させてしまおうというのです。自然回復に任せてたら時間がかかる。

ちなみに自然回復は安静にしてれば1日1点。大怪我だったら何週間かかかりますね。フレーベは生命力豊富だし、3週間ぐらいかかるかも。

タトゥスがヒーラーだったとしたら、かなりの回復を望めますよ。なにしろ1日でレベルのキーナンバー+知力ボーナス点も回復しますし。


しかし自然回復は安静にしてないといけないんですよね。現在のフレーベは馬車に揺られて休んでるんですが、これで回復しますかね。

それに傷によっては自然回復しないとしてしまってもいいでしょう。あるいはより多くの時間がかかる。フレーベの消耗はそうしてもいい程だと思う。

なお、フレーベが保護されてから既に10日経ってます。ヴェノン⇔ロイドは11日程かかります。そしてナシェルは併合間もなくヴェノンを出発。

併合から5日だから、ロイドまではあと6日程ですね。するとフレーベは保護されてから16日経つ事になります。自然回復ありなら結構治ってる。


現在のヴァリスのファリス大神殿は腐敗が著しく、神聖魔法を使える者も少ない。結構な量の寄進がないと魔法をかけてくれないでしょうね。

8レベルの"リフレッシュ"をかけてもらう場合、8レベルの司祭だったら銀貨6400枚、9レベルなら7200枚、10レベルなら8000枚ですね。

多分拡大する必要はないでしょうが、もっとふっかけられます。何故ならば、何千枚もの金貨を寄進したのだから。ガメついなファリス教団(苦笑)

小金貨1000枚だとしても銀貨にして1万枚ですよ。単純に回復してもらうだけなら拡大なんて要らないのに、どれだけふっかけるんだ。

まぁ、"リフレッシュ"さえかければ全快します。これから長く続く魔神との戦いを考えると、これでフレーベが全力を注げるなら安いものかな。


それに、ファリス神殿でジェナートに会う事もできました。この人なら大丈夫とナシェルは事情を話すと、理解を示してくれました。

教団の改革に専念するジェナートは、方々から警戒されています。最高司祭メイファーですら、その妥協のない改革に脅威を感じてるそうですし。

しかしジェナートはナシェルに協力を約束してくれました。こういった人物の協力を得られたのなら、やっぱり安いものかな。

同時にジェナートからルティエの惨劇を聞かされて、ナシェルは心配になります。魔神の恐怖が人を惑わせる、それは都合が悪いですから。


魔法で回復する事にはタトゥスが少し残念そうでした。本当は肉体に宿る治癒力で自然に治したかったそうです。

別に神聖魔法で治してもらったからって後遺症とか副作用とかがあるわけではありません。もっと違う、メンタル面での話です。


タトゥス「ひとたび魔法で治された者は、己の肉体に備わる回復力を軽んじるようになります。
     怪我をしても、また魔法で治してもらえると思えば、生に対する執着も希薄になります。
     怪我の痛み、病の苦しみと戦えばこそ、自らの肉体を大切に思うものではありませんかな?」

そう言われると少し耳が痛い。怪我しても死ななきゃいいや、どうせ魔法で治るんだし、なんていう考えが多少なりともありますものね。

怪我をするけど死なないと高をくくって行動して結果オーライで、PLはいいかもしれない。でも、PCは生身の人間です。怪我したい訳がありません。

高レベル司祭の"キュアー・ウーンズ"を頼りにして、怪我して治しての戦闘に一切疑問を持たないのは少し考えた方がいいかも。


さて、道中ナシェルが立ち寄った村の宿屋では、既に魔神解放と石の王国滅亡の噂が伝わっていました。随分と早いですね。

それもその筈、噂は海路を通ってロイドに回り、そこから南下して村に流れてきたのです。噂は人の行き来と同じ速さで広がるのですね。


このというものも、魔神戦争におけるキーワードの一つです。魔神という脅威に対して、これがどう広がるかで大きく状況は変わります。

魔神の恐ろしさを過大に評価して戦う意思を削がれるのは困るし、逆に過小評価して人々が魔神を軽んじてもやはり困ります。

噂が正確な内はむしろ好都合ですが、噂には贋作と改ざんがつきものです。どんな尾びれがつくか分かったものではありません。

口裂け女とかいい例です。都市伝説というのは噂によって広まる現代の民話のようなものです。当時その恐怖は噂とともに日本列島を駆けました。


ここで少しヴァリスとヴェノンの過去の外交問題が明かされました。元々ヴァリスは領土欲の強いヴェノンにいい顔をしてきませんでした。

5年前、通行税やヴァリス国民の使役問題で、国境で騎士団が睨み合うという事件があったそうです。まぁ開戦まではしませんでしたが。

しかしそれで国交は断絶、豊かな穀倉地帯を抱えるヴァリスからモスへ食料が入らなくなりました。これは結構深刻な食糧難になったそうです。

石の王国もかなり深刻になりましたが、ブルークがわざわざライデン経由で食料を輸入したそうですよ。そういう所は賢明な為政者なんですよね。


その時にモスの住人もヴァリスへ不快感を示し、国内のファリス神殿が焼き討ちに遭うという事件も起こったそうです。一揆ですかね。

元を正せばヴェノンのせいですが、憎悪は直接の相手に向けられるものです。これが魔神との戦いの障害になりそうですね。

ヴァリスは厳格なファリスの国です。魔神を許す訳がありません。しかし、無理にモスに軍を進めたら竜の盟約が発動されるまでです。

それに能力の問題もあります。邪悪の温床マーモも現実問題(戦力不足)から放置されているのです、ヴァリスは迅速に動きはしないでしょうね。

本来ならば、ロードス中の国が協力してでも殲滅すべき相手ですよ、魔神は。しかし、外交問題からそうはいかないのがもどかしい限りです。


★2

ヴァリスではミノタウロスが討伐されたことで、10年越しに王子の死去が公表されました。王子は離宮で死んだ事になってるので病死ですが。

この訃報を聞き、ワーレン王は自らを欺くことが出来なくなりました。ワーレン王は床に臥せり、もう長くないようです。

そうなると益々次期国王の問題が持ち上がります。最早国民の最大の関心ごとでしょうね。密かに王様TOTOとか行われてるかもしれない(笑)


喪章をつけて本物の王子に弔意を示すファーンとフラウスですが、そんな時にロイドにも魔神出現の噂が伝わってきたのです。

本当だとすれば由々しき事態です。嘘や間違いでこうも大々的に噂が広がるものではありませんし、噂とはいえ真実だろうと思っています。

やはり詳しい事が分からない現在の段階では、ヴァリスとしても動けないようです。いくら魔神が邪悪でも噂だけを論拠に派手な事は出来ませんよ。


これに対しては、フラウスが大きく関心を示します。この試練を乗り切れば、素晴らしい未来が開ける。そう彼女は思っているのです。

フラウス「魔神という共通の敵を相手にしてこそ、このロードスはひとつにまとまるかもしれません。国の垣根も種族の垣根も越えて

それは、確かに素晴らしい事かもしれない。本当にそれが実現するのだとしたら、戦争のせいで命を奪われる人も間違いなく減るでしょう。

魔神という共通の敵が現れたことでロードス中の人々が一致団結し、救世主とも言うべき偉大な英雄が現れ、ロードスは統一されるかもしれない。


しかしファーンは疑問に思います。統一後はいいかもしれないけど、それまでの現体制を変える過程で多くの血が流れる

例え統一されていなくても、各国が交流を深め、円卓会議を開き、問題を話し合いで解決できればそれでいいのではないか?ともね。

統一か連合か、いずれにしろ歴史の天秤は揺れる事はなくなるでしょうね。………そういう事考えると、ヤツがやってきますよ(苦笑)

いや、実現しさえすればやっぱりいいのかもしれないけど、渦中に身を置くであろう人々の事を考えると危険な考えかもしれませんよ。


賢明なファーンとフラウスはヴァリスとモスが連合して魔神と戦うべきだと考え、国交を改善しようと、ヴァリスの正式な使者になる事を考えます。

それでファーンが登城するのですが、なにやら様子が変です。それはロイド近辺のルティエ村が襲撃された事が原因でした。

領主ダルカンをはじめ、多くの村人が殺されたのです。よりにもよってロイドの近くでそんな事が起きたとあっては、国の威信に関わります。


それに関して協議をしていたのですが、敵の正体が分からないので、どれだけ兵を派遣すればいいか分からないというのです。

ファーンは偵察の兵を派遣して、不足のようなら報告に戻って援軍を送ればいいと簡潔に解決策を提案します。確かにその通りです。

しかし驚いたことに、敵に後ろを見せたら騎士の名誉が傷つくというのです。……教団もそうですが、王宮の方も色々問題があるようですね。

多分次期国王を狙っているから、失点になるような事はしたくないとかいう騎士もいるんでしょうね。それでも聖騎士か、テシウスを見習え。


そんな同僚達には構わず、ファーンは自ら偵察に志願します。それでこそ"百年に一人の騎士"です、騎士の本分をしっかり理解しています。

しかしそれはまた、ファーンの国王就任の可能性を高くする事になるんですよね。同僚達は結構複雑そうに見ていましたよ。

別にファーンは国王になる事に執着してはいませんが、選ばれれば受けるつもりです。現時点での最有力候補ですしね。

毎度毎度、選帝会議は紛糾する傾向にあるそうです。高潔な人物は覇気に欠け、野心的な人物には高潔ならざる者が多い。そんな理屈で。

しかしファーンはその実力も人格も実績も、他の騎士の追随を許しません。10レベルの超英雄ですよ、その辺の騎士が実力で勝てる訳ない。


★3

ファーンは部下と志願してきたフラウスを連れてルティエ村に赴きます。村は惨憺たる有様で、家は焼け、村人の無残な死体が転がってます。

襲撃者は赤い目をしていて、爪や牙や武器、あと締め付けなどで村人を殺したそうです。そして焼けた家……魔神でしょうね、やっぱり。

炎のブレスで家に火をつけたと推測されます。魔法を使った形跡はありませんが、明らかに盗賊の仕業ではありませんよね。


嗚咽を漏らし、ショックの余り正気を失っている人々はフラウスがケアし、ファーンは単身領主ダルカンの屋敷へ向かいます。

ダルカンは温厚な人物で、後進の指導を行う模範的な騎士で、賢明な領主だったそうです。ファーンが惜しい人物というような人だったとか。

屋敷では首を引きちぎられて血の海に倒れる老婆とか、全裸で首をへし折られた夫人といった、あまりにも無残な被害者が発見されます。

なお、全裸の夫人に関しては視界に捉えた瞬間にファーンは思わず目を伏せます。こういうとっさの反応がまた生真面目な騎士っぽい。

足跡を見ると指が三本で、絨毯はが引っかかったのか毛足が伸びてます。やっぱり魔神でしょうね、人間ではありえない事は確かです。


あまりにも残虐なその犯行に、ファーンですら怒りがこみ上げて来ています。フラウスだったら激昂してますね。

ファーンはとある部屋で、床に転がるダルカンの娘の首と、床に書かれたファラリスの聖印を発見します。多分聖印は血で……。

そしてこの部屋に隠れていたザルバードと戦闘になります。先にも述べたように赤い瞳の魔神です、村人が見たのはこれかもね。火も吐くし。


ザルバードと相対するファーンの頭の中では、夫人の遺体がグルグル、少女の首もグルグル、怒りに燃えるファーンはザルバードに切りかかります。

しかしその怒りに囚われすぎてザルバードの動きを読みきれなかったのか、足だけ切り落として、逃がしてしまいます。相手は飛べますもんね。

一瞬本気で邪眼を欲しがった程ですが、ファーンはその邪念を振り払い、怒りに囚われた自分を深く反省します。こういう点がまた騎士っぽい。


遅れてやってきたフラウスは少女の首を優しく包みます。逃がしはしましたが、犯人が魔神であることは立証できますね。足があるし。

では何故魔神はこの村を襲ったのか?。モスではなく、何故わざわざヴァリスに敵対行動を取ったのか。何か意図はあるのか。それが謎です。

魔神はドワーフの大隧道を占拠しています。これを使えば、地上を通らずに各地に魔神を送り込めるのです。各地に出口がありますからね。

以後何処で同じ事件が起きるか分かりません。明日にはアラニアやカノンといった遠い土地で魔神が村を襲ったとしても不思議はないのです。

そして、魔神は無軌道に暴れている訳ではありません。今回の犯行にも、意味があるのです。それは、もう間もなく明らかになるでしょう。


★4

ルノアナ湖の畔にウォートの研究所である塔があります。その傍で、ベルドは半裸で大岩の上に胡坐をかいていました。

グレイン・ホールドから脱獄して一月、ウォートの塔に身を寄せていたベルドは、ここ最近は遺跡に巣くうモンスターを相手に戦っていました。

ウォートが折角だからと危険な遺跡ばかりを調査したので、ベルドは結構退屈せずに過ごす事が出来たようです。

モンスターならともかく、盗賊の技術が必要な罠の類はどうしてたのか気になりますが、本人は元気そうなのでよしとしましょう。


しかし魔法生物やアンデッドといった精神を持たない輩と剣を交えても、本当の意味でゾクゾクする事はないそうです。

剣を打ち合わせた時、相手の力や技と同時に、心の動きや感情が伝わるからこそベルドは満足できるそうです。

極限まで精神を高揚させて剣を交えれば、相手の事が伝わってくる。ベルドらしいといえばらしいかな、愛で空が落ちてきそうな男です(笑)

ベルドはファーンと対比される事が多いのですが、その戦いに対するスタンスは全然違うものですね。正に水と炎、光と闇、静と動です。


しかしそろそろ剣と共に精神を交える戦いが恋しくなってきたのか、ウォートの所をお暇しようかと思っていました。

そんなベルドの元に謎の魔法戦士が姿を現します。魔法のバスタードソードとチェインメイルを装備した、老人です。

ベルドの命を貰いに来たと老人は言い、ベルドに戦いを仕掛けてきたのです。その額には、人の双眸に似たサークレットがついています。


……来ましたね、ついに来ました。"灰色の魔女"カーラの登場です!。この時点での彼女の器はこの老戦士なんですよ。

「伝説」初登場のカーラですが、「戦記」の方の愛読者にはお馴染みですね。この時代でも当然彼女は活動してるのです。

詳しくは「戦記」、特に「灰色の魔女」を見ていただくとして、今回の彼女の目的はベルドを器にする事です。

今大きくロードスの天秤が狂おうとしています。人間側は誰が白か黒かはまだ分かりませんが、魔神は確実に黒です。

魔神を滅ぼす、その点についてはカーラは味方ですよ。その為にベルドという新しい若い器を欲したのでしょう。


老人(ていうかカーラ)はかなり強い戦士のようです。いきなり短剣を投げつけてきたわけですが、なんとベルドの頬に掠りました

ベルド「オレから血を流させたのは、老人、あんたが三人目だよ

血を舐めて味で毒を使っていない事を確かめつつ言いました。流石に実戦慣れしてます。その2人が誰なのか非常に気になるところですね。


ベルドが大岩から飛び降り、そのまま魔法のグレートソードを振り下ろした事から2人の戦いは始まりました。互いの魔剣が火花を散らします。

ベルドは11レベルで筋力24の規格外の戦士です。追加ダメージは魔剣を考慮して16点はある。という事は計20点以上のダメージの筈。

しかしカーラは(ていうか老人は)それを普通に受け止めました。強いですね。何処の誰かは知りませんが、それなりに高レベルでしょう。

普通の人間じゃあ剣を落とすか、下手したら骨や筋がイカれそうな攻撃だったのに、この年齢で受け止めるのは只者ではありません。


こんなに強い老戦士ですが、ベルドは大いに楽しんでいました。普通なら焦るなり緊張するなりするんでしょうが、そんなのとは無縁です。

攻防の中で相手の剣が喉元に伸びてくると、跳躍して空中で一回転して回避したりもします。軽業師のようなアクロバティックさです。

シーフ技能に《軽業》というのがありますが、それと似ていますね。2mはあろうかという巨体でこの動き、驚くべき身体能力です。


それからはベルドの押せ押せムード一色でした。辛うじてカーラはベルドの猛攻を凌ぎますが、息が上がっています

どんなに手練でも、やはり老人なのですね。若いベルドのアグレッシブぶりにはついて来れないのでしょうか。このままじゃ心臓が止まる。

ベルドはカーラと剣を交えた事で、相手に殺意がなく、命を惜しんでもいない事を察します。流石によく見抜きますね。


カーラはベルドの予想以上の実力に感嘆し、歴史の盤上の新たな駒である事を察して、"テレポート"でさっさと逃げました。

本当に殺すつもりなら、最初から魔法を使ってますよ。それをしなかったのは、やはり新たな器候補だったからでしょう。


ベルドも流石に考えます。アラニアには魔法戦士は多いけど、それだって魔術は剣を使った戦いの補助的な物に過ぎない。

「ロードス島RPG」には専用の呪文までありましたよね。SWルールだと、初歩の"プロテクション"や"シールド"などを駆使するのでしょう。

しかし老人はあれだけの剣の腕を持ちながら、なお高位の魔術まで使ったのです。しかも目的は不明、そりゃあ気になりますよ。

考え込んでいるベルドは、こちらにやってくる馬車に気づきます。勿論ナシェルです。少しずつ、役者が集ってきています。


★5

全快したフレーベだけを伴い、タトゥスを情報収集にロイドに残して、ナシェルはウォートの塔にようやく到着しました。

フレーベによれば、この塔もドワーフの建造だそうです。色々仕掛けもありそうですね、侵入者を阻む凄い罠とか。

それにウォートの施した魔法のセキュリティーもあるでしょう。なにより、入り口がないので入る事すらままなりません(笑)

どうやら幻覚魔術で扉を隠してるようです。多分永続的で任意に解除できる呪文でしょう、遺失魔法かアイテムっぽい。


ナシェルが大声でウォートを呼ぶと、突然扉が現れます。どうやら会ってくれるらしい。門前払いされても文句は言えないんですけどね(苦笑)

ナシェルはベルドもいる事を知ると驚いて、片膝をついて父の非礼を詫びます。この礼節を心得た態度がナシェルらしいですね。

出迎えた2人も色々複雑そうですが、別に国に帰れという訳ではないので話を聞いてくれます。ていうか、スカードはもう存在しないし

中に入れてくれた事で、ナシェルは深く頭を下げて感謝の意を示します。本当に一々礼儀正しいですね、ここまで徹底してると気持ちいいぐらい


そしてナシェルはベルドとウォートに一連の事件を語ります。魔神の出現、石の王国の滅亡、スカードの併合、ルティエの惨劇。

密かにスカード併合に対するウォートの反応を気にしていました。ウォートのような大賢者なら、過ちであった場合それを指摘されかねない。

それに、やはり自分の国を差し出したくだりは声が震えていました。まぁウォートはこれといって反応しませんでしたがね。


そしてナシェルはウォートに食い入るように尋ねます。魔神は何処から現れたのか、その数と実力は、目的は?

その経歴は先にも述べた通りです。彼らはアズナディールに召喚されて封印されて、放置されていたのを解放された訳です。

ナシェルはその境遇に同情していました。大人だ大人だと思っていましたが、そういう少年らしい感情もあって少し親近感が湧きました。


魔神に関する研究はかなり進んでいたのですが、流石に魔神将以上の高位の魔神の生態や能力には謎が多いそうです。

連中の王が魔神王である事は間違いありませんけどね。それを聞いた時のフレーベの目には怒りの炎が灯っていました。

ウォートがかつて所持していた「魔神王の書」という書物によると、その数は千や二千ではないらしい。生憎と現在手元にないので詳細不明。

ではどこにあるかというと、ブルークが持っていってしまいました。今頃は「魔神王の迷宮」の最深部に打ち捨てられているんじゃないですか。


では、魔神を大雑把に階級で分けるとどうなるか。これは以下の通りになります。レベル設定も公式です。ただし下位種などは私見です。


階級 レベル
最上位種
魔神王 デーモン・ロード 20
上位種
魔神将 アーク・デーモン 13〜15
下位種
上位魔神 グレーター・デーモン  9〜12
下位魔神 レッサー・デーモン  5〜 8

そしてこれらの階級の中に、ザルバードやラグナカングといった種族があり、その種族の個体が相当数存在します。

特に書かれてはいませんが、もしかしたら名前もあるのかもしれません。いや、全くの勘ですけどね。もしかしたらという概念がないかも。

普通に考えて上位魔神ともなれば並みの人間の太刀打ちできる相手ではないのですが、ここにはそれを軽く葬る英雄が揃っています。


最初下位の魔神として生まれて上位に成長していくのか。あるいは最初から絶対的な階級として生まれてくるのかは不明です。

ただ、どうも関係があるとしか思えない種族が階級を跨いで存在するんですよね。例えば鏡像魔神(ドッペルゲンガー)という種族です。

この種族は下位魔神にも上位魔神にも存在します。下位の方はダブラブルグ、上位の方はドッペルゲンガー(まんま)という種族名です。

そして魔神王もこの鏡像魔神の最上位種ではないかという説もあるのです。真実かどうかは水野先生のみぞ知る。

他にも関連があるとしか思えない種族が複数あります。まぁその都度紹介して行きますよ、機会があれば。


ナシェルはウォートに聞きました「魔神に勝てるのか?」と。ウォートの答えは「分からないが、賭けるとしたら魔神」だそうです。

魔神の強さはウォートがよく分かっています。何しろ魔神は15レベル巨人のサイクロプスの王国を滅ぼしているのです。

そんなのに人間が勝てるのか、非常に疑問ではありますよね。もっとも、人間だって巨人や竜を倒す事がありますがね。


勝てる勝てないはともかく、人間である以上戦わねばなりません。その点はウォートもベルドも異論はありません。

歓迎すべきかどうかはともかく、きっと魔神の首に賞金をかける人も出てくるでしょう。ベルドはそれを目当てに戦います。

ウォートとしても、乱世は自分を売り込む絶好の機会ですからね。もっとも、ナシェル、という理由もあるのでしょうが。

強い味方を得たナシェルは、母方の伯父であるハイランドのマイセン王を頼る事にします。竜騎士で有名な、あのハイランドです。


ウォート「ロードス各地で、魔神は暴れることだろう。ロードスの全住人は恐怖に震えることになる。だが、その事実は悲観する事ではないのだよ」

その予言めいた言葉の意味は数日経って明らかになります。ロードス各地、アラニアやカノン、ライデンや風と炎の砂漠で魔神が村を襲ったのです。

こうしてロードスの全住人は理解します。自分は傍観者ではないと。水面下で起きていた変化が、いよいよ形になって現れてきました。


第W章 帰還せし者

★1

"竜の目(ドラゴンアイ)"ハイランド王国はモスの北端に位置します。建国年は100〜200年の都市国家群立時代であり、ハーケーンに並んで歴史ある国です。

王都は国名と同名で、王城は切り立った崖の上に建造されたオーバークリフ城です。その堅牢さはロードス内でも屈指です。

王族は代々優れた人物を輩出する事で知られていて、「ハイランドに暗君なし」とまで言われている勇者の家系なのです。


常に戦乱の危機にあるモスの国なだけに、アラニアやカノンにありがちな堕落や腐敗は見当たらない、質実剛健の骨のある国風です。

急峻な崖を上り下りするせいか軍馬はモス一と言われ、傭兵や民兵を用いない強力な騎士団のみの軍制を取っています。

ハイランドを強国と言わしめているのは、何と言っても竜騎士の存在です。竜に騎乗し戦う竜騎士は、専ら他国の脅威の対象です。


マイセン 43歳

ファイター?、ドラゴンテイマー?。現在のハイランド王国の国王。自らも竜騎士であり、戦士としても竜騎士としても歴代でも屈指の実力。

優れた竜騎士ほど罹りやすいと言われている不治の病、竜熱(ドラゴンフィーバー)にかかっていますが、現在はまだ軽症。

なかなかの名君としてロードスに広く名前を知られています。ナシェルと同じ色合いの金髪に、鼻の下の太い髭が特徴。

末の妹であるエリザはスカードの王家に嫁いだナシェルの母親です。マイセンから見たら、ナシェルは甥っ子なのです。

子供は息子が3人、娘が2人います。長男のジェスターが世継ぎで、その2つ下に双子の兄弟がいます。娘は上が13歳、下が10歳。


ジェスター 18歳

ファイター?、ドラゴンテイマー?。マイセンの長男、ハイランドの皇太子。やはり竜騎士であり、マイセン譲りの勇者の資質を持っています。

マイセンには世継ぎとしてかなり頼りにされています。マイセンに何かあっても、彼がいればハイランドは安泰といえます。

「戦記」の時代には、彼が魔神王と戦っていたら六英雄は七英雄になっていたと言いますが、それは実に微妙(笑)


彼らのような竜騎士を語る上で欠かせないのが、ドラゴンテイマー技能竜熱(ドラゴンフィーバー)です。


ドラゴンテイマー技能は、竜を飼育し、調教し、騎乗するのに使用します。竜騎士には必須の技能と言えます。

これはファイターやソーサラーといった冒険者技能とは違う一般技能なので、経験点を払っての習得・成長は出来ません。

では何がレベルアップさせるかというと、素っ気無く言えばGM次第。小説的なロマンある言い方をすれば、竜との繋がりの強さです。

ワールドガイドには成長させる際の大よその目安が載っています。竜に乗っての戦闘経験が、竜との繋がりを強くさせるようです。

戦闘時はドラゴンテイマー技能+敏捷度ボーナスを用いた判定に成功しないとその真価を発揮できません。詳細は又の機会に。


竜熱(ドラゴンフィーバー)は、竜に宿る炎の精霊力がその原因だと考えられています。竜に親しい竜騎士の職業病のようなものです。

そのデータを見ると進行速度は1年と、症状が進むのには相当時間がかかることが分かります。また進行強度は5とかなり低い。

つまりは1年に1回2D6で平目判定をし、5以上が出ればそれ以上症状は悪化しないのです。1年2年では死にませんね。

5以上ということは確率にして1/6、6年に1段階程度で病状が進行するのです。致死深度を考えると、おおよそ24年生きられる


竜熱に侵されていると、あらゆる判定にその深度と同じだけのペナルティーを負います。絶え間なく続く微熱のせいです。

しかし気力を振り絞ることで一定時間ペナルティーを失くせます。その分、それを過ぎるとより重い症状に陥りますがね。

マイセンは今は普通に動けるようなので、深度は1〜2ぐらいかもしれません。それ以上になると、気力を振り絞ったら行動不可能

もしかしたら誰にも見られていない所でそうしているか、あるいは無理しないように心がけているか、かもしれません。


この病は不治です。神聖魔法を使っても治らないのです。竜騎士達はこの病に罹る事を覚悟してるし、誇りにも思っていますがね。

2人に1人、あるいは3人に1人ぐらいの発症率です。マイセンも自覚症状が出ているだけに、自分がそう長くはない事も知っています。

優れた乗り手ほど発病しやすいというのは、やはり竜との繋がりがより強いからでしょうか。ならば、マイセンが発症したのは当然かもしれない。


マイセンにも魔神の話は伝わっています。それどころか新しい話も知っていますよ。なんでも、魔神はライデンにも現れたそうです。

夜、通行人が惨殺されて家々に押し入る。それは怖い。武力が命大事の傭兵だけのライデンでは、対応するのは難しいかもしれない。

僅か10日ほどの間に20人もの人が殺されたというです。そう噂、ルーマー。何処まで正確なのかが分からない、曖昧な情報です。


これは割りと本当っぽいのですが、ジェスターの知っている噂はもっと胡散臭いですよ。そんな訳ないだろ、と思わず苦笑するようなのもあります。

魔神が現れて村を襲ったとか、夜の街に現れて人を殺すだとか。この辺はまだしも、ある言葉を唱えれば願いを叶えてくれるそうです(笑)

魔神に対する恐怖、人間の願望。それがこんな下らない話まで作り出すとは。何処の世界にも都市伝説っぽい話はあるんですね。


魔神はロードス各地に現れています。しかしマイセンは、何故モスでは魔神が姿を見せないのかが気になっています。

一番近場のモスを無視して、何故わざわざ遠くのアラニアとかカノンにまで出張してるのか。それは確かに妙な話ですよ。

ヴァリスのルティエ村の惨劇もそうでしたが、これもまた魔神の策略なのです。ある目的があって、わざとそうしてるのですよ。


★2〜3

ベルドとウォートを加えたナシェルは、回りまわってようやくモスに帰ってきました。そして母方の実家であるハイランドを尋ねました。

ナシェル達はヴェノン領を避けて北周りでハイランドにまでやって来ました。つまりマーニー、ローランといった都市国家を抜けて。

しかも風と炎の砂漠の風の部族の集落も通って、ライデンにも立ち寄ったそうです。そして各地で魔神の話を聞きました。


一応ライデンの話は事実のようです。もっとも、傭兵達の総力を挙げた討伐も実を結ばず、返り討ちにあって首を晒された人もいたそうですが。

人数とかも噂として流れる内に誇張された可能性がありますよね。実際は5人ぐらいでも、倍々となって20人にまで増えたかも(苦笑)

傭兵達の士気は一気に下がり、逃亡する傭兵まで出てますよ。たった1匹の魔神で街一つ危ういのです。いざとなったら脆いものですね。

ウォートの勘定では、魔神が50もいればロードス中の街が麻痺するそうです。死の恐怖に怯える人はこうも弱いものなのか。


ナシェルは魔神が石の王国での戦いで戦力を減らしているから、正面からではなく各国を混乱させる手段を使ってると考えています。

そうして各国の治安がボロボロになり、手を組むどころか内部崩壊を起こしてから侵略を開始すると予想してもいます。

組織的な抵抗力を奪ってから落とす、というのは石の王国でも実践した事です。実はこれはあながちハズレでもないのです。

まず魔神の戦力が落ちている、これは確かです。各国を混乱させるのも。一つ違うのは、魔神の目的はただの侵略ではないという事ですかね。


いずれにしろ、今人間達がすべき事は団結することです。魔神は体力も魔法も人間より優れてる。唯一勝る数の優位を生かさないと話にならない。

そういう意味では、フラウスのいうロードスの統一が成されていないのは痛いかもしれない。統一されていたら、普通に対抗してたでしょう。

しかし統一王次第では、魔神がいなくてもロードスは大変な事になります。王の力は王にならないと分からない。でも分かってからでは遅い。

乱世で人は英雄を求める。そして英雄に自分達を守って欲しいと思う。しかし、英雄に必ずしも王の資質があるとは限りません


魔神に対抗する為に、ナシェルは自分の出来る事を全てつぎ込もうとします。だからこそ、か細い縁を頼ってマイセンを訪ねてきたのです。

そのマイセンですが、相手が身分を明かさないから公的な客にせず、私室に通しました。流石はマイセン、普通の王なら考えられませんね。

身分を明かせないというナシェル達の立場を酌んでくれたのです。仮に刺客だったとしても、マイセンなら返り討ちにするまでです。


マイセンは竜鱗鎧(ドラゴン・メイル)という竜騎士のみが着る事を許される鎧を装備して会ってくれました。別名鱗片鎧(スケール・メイル)。データ上はラメラー・アーマーです。

実はスケール・メイルはSWの旧版ではあったのです。しかし、チェインメイルより安くて同じ防御効果という理由で完全版では消えました。

「アイテム・コレクション」を読む限り、実に微妙な鎧のようですしね。竜騎士にはよく似合っていますけどね。


マイセンは来訪者が甥のナシェルだと知ると、懐かしそうな顔で歓迎してくれました。今は亡き末の妹の忘れ形見ですしね。

本当ならブルークはスカードとも交流を深めたいと思っていたでしょう。しかしほとんどヴェノンに従属していましたから、それも出来ず。

一度だけですが、ナシェルは母に抱かれて里帰りしたそうです。乳児だったから覚えちゃいませんが、マイセンはしっかり覚えてます。

しかしエリザが亡くなると、ハイランドとの関係は表向き途絶えてしまいました。もっとも、変わらないものだってあったわけですが。


マイセンは2つだけナシェルに尋ねました。何故スカードを併合させたのか、何故ヴェノンを出奔したのか

前者は以前も話したように、魔神が来る前に領民を救う道を作る為です。だからヴェノンにスカードを守る義務を作ったのです。

そして後者は、魔神と戦う為です。暗殺という危険を避けて、命を惜しんだのは事実です。しかしそれは魔神と戦うという誓いがあるからです。


ナシェル「わたしは、彼らを見捨てたのではありません。たとえ、同じ場所にいなくても、同じ苦労と困難とを共有しているつもりでおります」

死ぬ事は簡単でした。城に篭って、有志だけを募って討ち死にすればいい。しかしそれでは無駄死にです。ただ死にたいなら自害すればいい。

生き恥を晒すより死を選ぶ。そういう騎士はあるいみ潔いでしょう。マイセンが言うには、ジェスターもそういうタイプだそうですから。

しかしナシェルは無様でも生きて使命を果たす道を選んだのです。死ぬ事は容易く、使命を果たす事は難しい。辛い事ですがね。

今のナシェルにはフレーベという盟友もいます。「エールの誓い」もある以上、つまらない死に方をする訳にはいきません。


ナシェルの覚悟を知ったマイセンは、改めてナシェルを歓迎してくれました。一応ハイランド王族の外戚ですし、領地だってあげてもいいそうで。

ベルド達も紹介し、一行は公式にハイランドに滞在する事になりました。流石にマイセンは全員名前を知っているようでしたね。

さっきはほとんど礼儀を示さなかったベルドとフレーベも、この時ばかりは流石にちゃんと応じました。ベルドにもそういう所があるんですね。

マイセンはやはり噂どおり、いやそれ以上の人物だと分かって少し希望も見えてきました。しかし、魔神は容易い相手ではありませんよ。


魔神戦争の武勲詩にこういう節があります。

「祈りの如く天に指し上げられた剣に躍る銀光は、やがてまとまり、希望の太陽となった」

少しずつですが、魔神という恐るべき敵とも戦える優れた人物が集いつつあります。そしてその中心にいるのが、ナシェルです。

今ロードスは史上類を見ない危機に立たされています。しかし希望はあります。その希望が集まった時、闇を消し去る太陽となるのです。

ナシェルは何かと恐縮していますが、実は優れた英雄達を束ねるという誰にも真似のできない事をやっているのです。それはやはり、王の資質か。


その夜、ナシェル達を歓迎する宴などが開かれました。宴とはいっても、質実剛健なハイランドだけにそうはっちゃけたものではないですが。

音楽もなく躍りもない。宮廷婦人達は着飾るよりも、給仕に専念しています。それは王族に属するウィラン王妃と娘も同様です。

しかしハイランドの騎士達には覇気があります。スカードにはなかった、強国の騎士らしい立派な態度の騎士が多いようです。


だからナシェルに対しては軽蔑の視線もありますけどね。同情してくれる人もいましたが、ナシェルは気に留めず堂々と構えます

他人の目を気にせず、自分の取るべき行動を恥らわずに取る。それは結構難しい事かもしれませんが、だからこそ王道と言えます。

ジェスターの弟の双子の王子も、ナシェルには本当に好意的に接してくれました。解放されすぎですよこの双子、本当に王子様か(苦笑)


周りがどうであれ、ナシェルは今の自分の立場を理解した上で宴を楽しんでいた。これから不安な事もあるだろうし、辛い事もあるでしょう。

しかしそんな先のことを今から気に留めていたら疲れます。辛い事も苦しい事も避けられはしない。だからこそ、楽に構えるのです。

楽々、それは本当に強い心の持ち主でなければ貫けない態度なのです。弱い者だったら、不安に押し潰されるだけでしょう。


流石にフレーベは全然楽しめていませんがね。いくら鉄の心を持っていても、辛いものは辛いのです。

国を失う辛さは当事者でなければ決して分かりはしないでしょう。そして、分からない方が幸せですらあります。

ベルド曰く、「自分の命よりも大切なものがあると、人間、気苦労が多くなる」だそうです。そうなのかもね。


ウォートは自分が魔術師であるという理由で溶け込めずにいます。そしてウォートはその事実に、少なからず劣等感を抱えています。

ハイランドでは宮廷魔術師を置いていないからか、ウォートを歓迎してないようですしね。マンガではオ・フローリンという人がいたけど。

別にハイランドだからという訳でもありません。多くの人は魔術と魔術師を忌む。カストゥール王国の影響でしょうかね。

カストゥールは魔術を使えない蛮族達を奴隷として使役していた。結果として恨みが鬱積して彼らはカストゥール打倒に立ち上がったのです。

ウォートはそんな事実をとっくに受け入れていますけどね。賢すぎるというのも時には辛いものです。孤立とは優れた人物の定めなのか。

もっと後ですが、ウォートのそんな心に焦点を当てられる事になります。その心を拾い上げられたのは、ある真の聖女でした。


ベルドはウォートが隠し事をしている事を見抜いていました。流石に人を見る目はあるようですね。もっとも、見誤る事もありますが。

その隠し事とは、ウォートがブルークの愚行に一役買っているという事実です。別に責める様な事でもないと思いますけどね。

ブルークの所持していた魔神王の書を解き明かしたのはウォートであり、魔神の事を話し、下位古代語を教えたのもウォートです。

だから責任を追及しようと思えば出来ないことはない。でもそんな事をしても今更無意味だし、何の解決にもなりはしませんがね。

それに、ウォートは魔神を使う事には反対でした。魔神を使えばロードス統一なんて簡単ですが、幸いにもウォートは賢者ですので。


しかし、流石のベルドもブルークとウォートがロードス統一の野心を持っていた事までは見抜いていないようですね。

以前書いたように、彼らは同じ野心を持つ盟友でした。そしてナシェルに大きな期待をかけているという点でも同じでした。

だからこそウォートだけでなくベルドまで招聘し、ナシェルの才能を最大限に引き出そうとしたのです。それさえ出来れば野心を適えることも可能。


ナシェルの器の大きさはベルドもウォートも認めています。戦士としても魔術師としても才能がある。しかしその本質はなのです。

能力値を見ると分かりますが、ナシェルは戦士としても魔法使いとしても素質がありすぎです。マルチプレイヤーにも程がある(笑)

ナシェルは何をどれだけ教えても、砂漠に水を注ぐかのようにすぐに吸収してしまうのです。恐るべき才能ですよ、本当に。

では何故ブルークはそれを待てずに愚行に及んだのか、それが大賢者にも謎。魔神解放の真相は、外伝の方で書きますので。


少しだけ寛げたナシェルですが、魔神達は彼を休ませてはくれません。魔神は今度は鏡の森を襲撃したのです。

鏡の森とは、モスの東北部、ハイランドの近くにある豊かな森で、エルフ達の住処です。その森が魔神に落とされたのです。

集落を追われた生き残りのエルフ達も、現在ハイランドの城下にまで逃げてきているのです。ドワーフほどは徹底抗戦しなかったのかな。


鏡の森は帰らずの森や闇の森と同じく黄金樹も生えています。勿論住んでいるのは普通のエルフですよ、ハイでもダークでもない。

ロードスにおいてはハイエルフは帰らずの森、ダークエルフは闇の森に住んでいます。普通のエルフは鏡の森を除いては、カノンの森林にいます。

カノンの方は英雄戦争の時に滅ぼされてしまうので、将来的にはこの鏡の森出身のエルフがロードスのほとんどのエルフとなるでしょう。

多分ロードス全体の地図には載っていないような森にも、エルフの小集落があると思いますけどね。やっぱり少数かと思います。


ドワーフに続いて今度はエルフ。まるで妖精を目の仇にしているようですが、そんな種族的差別意識で動いている訳ではありません。

魔神達が鏡の森を襲ったのは、黄金樹を奪う為です。流石に帰らずの森や闇の森は遠すぎたか。いや前者は入ることすら困難ですが(笑)

では黄金樹を奪ってどうするかというと、黄金樹に満ち溢れる生命の精霊力を利用して、雑兵として使う魔神兵(スポーン)を生み出すのです。


魔神兵は魔神達が創成魔術によって創り出した魔法生物で、モンスターレベルは3です。石の王国で減った戦力を補う為に作った雑兵ですよ。

姿形は魔神に似ていなくもないので、魔神と見間違える人もいそうです。また魔神兵と一口に言っても、形状や能力は色々あるそうです。

ロードス島伝説のリプレイでは色々と出てきましたが、SWでは火や酸を吹いたり、魔法を使ったりする事はないそうです。

魔神兵は魔界でも作成可能だそうです。それを魔方陣で召喚する事も可能。水野先生は自然発生という設定も考えていたようですけどね。


鏡の森の事件に続き、ハイランドはヴェノンから竜の盟約の発動を要請されました。スカードにも魔神が現れたのです。

竜の盟約が発動した以上は参戦せねばなりません。しかし、このタイミングで本国を手薄にするのはやはり躊躇われます。

それでもマイセンはハッキリと決断し、二隊だけを残して残りをモス連合軍に合流させる事にしました。

これでようやく、人間の軍隊が魔神の軍団と戦闘をするのですね。人間がとして魔神と戦うのはこれが初めてですよ。


ウォートとベルドはハイランドに残って、鏡の森の一件を調べる事にします。ナシェルはマイセンやジェスターについていきます。

ここでウォートはナシェルに"アミュレット・オブ・カウンターマジック"という護符型のマジックアイテムを授けました。

要は恒常的な"カウンター・マジック"ですね。これでナシェルの精神抵抗力は13になりました。10レベル相当の抵抗力ですよ。

ちなみに価格は銀貨にして6000枚。ウォートは沢山持ってるそうですし、そんなに高価なものでもないようですね。

しかしあるとないでは大違い。常にかかっているのが大きい。魔法やその他の能力で精神抵抗が多そうな魔神相手なら役立ちますよ。


★4〜6

魔神出現、この報告で竜の盟約が発動され、スカードの王城グレインホールドにはモス諸国の騎士達が詰めていました

「王たちの聖戦」でも書いた事ですが、本来ならばモス王国でハイランド公国が正しいのです。王の方が公より立場が上なので。

しかしモスは各国の独立意識の強さからか、これを逆にしてモス公国でハイランド王国と呼んでいます。ややこしいですが。

ですからこの場にいる騎士達はモス公国の連合騎士団になるんですよね。事情を知らない人は普通に間違えていそうですね。


そしてこの場に、ファーンとフラウスも来ていました。もちろんヴァリスの正式な使者として出張してきたのです。

ファーンとフラウスはルティエの惨劇以来、モス諸国にヴァリスが援軍を派遣する用意があることを説明して回っていました。

しかし何処へ行っても積極的に受け入れてくれそうな国はありませんでした。ヴァリスに領土的野心あり、と考えたようです。

長い間争ってきたからか、極度に謀略に敏感になってるようですね。加えてヴァリスとモスは以前衝突したこともあるし。


他国の騎士は領土内に入れたくない、王としては当然過ぎる反応ですね。マイセンだってそういう態度を取ってたし。

相手は魔神であり、出来るだけ優位な戦力でぶつかるべきなのは分かっています。それでもやっぱり、譲れない一線があるのです。

だから魔神が攻めてきたとして、ファーンは戦えないのです。ヴァリスの騎士隊長であるファーンが参加するといい顔をされません。

しかしファリスの教えでは魔神は倒すべき相手ですし、女性(フラウス)を守るのもまた騎士の勤めです。聖騎士には制約が多いですね。

結局は戦うことにしますけどね。魔神が目の前に現れたら結局は戦わないといけないし、いっそモスへの売り込みと割り切ってしまってもいいかな。


ファーンはマイセンにもヴァリスの援軍の件を熱心に話しますが、やはり聞き入れてはくれません。その代わり、ナシェルと出会えました

ナシェルはジェナートとも知り合いなので、その辺から話を切り出すと、思った以上にスムーズに話が進みました。

フラウスはナシェルから一連の事件の事を聞くと、「ご苦労なさったのですね」と敬意に満ちた目で見てくれました。

それに、魔神とは種族や国を越えてロードスの全住人が団結すべきだという考えも一致したので、今度は驚いていましたよ(笑)


フラウス「魔神が解放されたのは、神がわたしたちに与えた試練。きっとこのロードスに戦乱が絶えないからでしょう」

そして、一つの島で幾つもの国が争う事の無益さを訴えているとも言います。全住人が団結しないと魔神には勝利できない、ともね。

そう言われると確かにそういう取り方もあるかと思いますけど、これが試練だとするならあんまりですよね。

石の王国は滅び、スカードは併合され、鏡の森は蹂躙され、多くの命が失われている。そんな神様の片棒を担ぐのは気が引けますね(苦笑)

人間にのみ都合のいい神はいないという格言が何かにありましたが、ファリスはこんなに酷な試練を課したりしないと思いたい。


そして夜が訪れます。城内には1万に達しようかという大軍勢が控え、篝火を絶え間なく炊いているので昼間のようです。

それは戦に有利な状況を作るという当然の行為なのか、それとも無意識に夜の闇と闇の中に潜む魔神の恐怖を忘れたいからか。

魔神が来た事を告げる狼煙が上がってもう10日になるそうですが、未だ魔神は姿を見せません。それがかえって不気味です。

こういう時クリスタニアだったら、フォルティノやルーミスのタレントで、ある程度の備えは出来るんですけどね。


ナシェル、ファーン、フレーベ、フラウスはモス連合とは直接関係ないということで、同じ部屋にいたりします。

フレーベは魔神との戦いに備えて完全武装で眠ってます。ガチガチに固められた状態じゃ寝にくそうですけどね。

フラウスは随分落ち着いていますね。戦いに対する邪念がないからか、フル装備でも凛としていて美しいですよ。

ここでナシェルは、自分をフラウスと比べると幼子のようだと言いますが、彼がそうなら普通人は胎児か(笑)


ナシェルはハイランドから正式に外戚に迎えるという宣言を受けて、晴れて日陰の身から脱出できました。自由には動けませんがね。

それはつまりスカードの統治権を主張しないという意味です。もう本格的にスカードは滅びたのですね、今更ながら切ない。

スカードの建国は362年、今年は473年。111年間の歴史があったのですね。怪人二十面相の変装バリエーションと同じ数(関係ない)。


やがて南から魔神の軍勢がやって来ます。いよいよモス連合騎士団と魔神の軍団との、グレインホールド攻防戦が始まるのです。

ナシェル「麦酒の誓い、今こそ果たしましょう」

フレーベ「おうよ、失われたふたつの国の、失われぬひとつの誓いのために

決意を固めた一行は、魔神が侵入してきそうな地下牢の抜け道を張ってみることにします。王族だけが知っているというやつですね。


地下は当然真っ暗なんですが、誰かいました。明かりをつけようとすると、向こうは"ライト"を唱えました。

その人物とは、革鎧を着た魔法戦士でした。長い黒髪、革の仮面、性別不明、善悪不明の不思議な人物です。

フラウス曰く、邪悪でも善良でもない、中間に位置しているかのような人物だそうです。そう、白でも黒でもない灰色のような……。

ここまで言えば分かりますね、カーラです。あの老人の体から、こっちの新しい体に移ったのですね。どうやってかは怖くて聞けませんが。


カーラ(仮面の魔法戦士)

ソーサラー10以上、セージ10、ファイター7。正体不明の仮面の魔法戦士ですが、その正体は"灰色の魔女"カーラです。

"灰色の魔女"として、ロードスの力の天秤を保ち続けてきた彼女ですが、今回は魔神を倒すという点でのみ味方です。


現在の肉体は、ファイター7レベルで器用度・敏捷度共にボーナス+3という手練の戦士です。何処の誰かは謎です。

しかし生命力と筋力はあまり高くないので、その辺はあまり逞しくない体の特徴が出ていますね。性別すら分からないという絶妙な体。

わざわざ仮面を被っている点、やはり正体が知れるとマズイ人物なんでしょうかね。何処かの国の要人とか。

しかし姿なんて魔法でいくらでも変えられるので、面割れ防止の必然性はない。もしかして、趣味ですか(笑)


フラウス辺りがかなり不審に思っていますが、深く問いただす以前に魔神がやって来たのでそのまま戦闘になります。

現れたのは7レベル下位魔神メルビズ9レベル上位魔神レグラムでした。メルビズは5体もいますが、レグラムは1体です。

メルビズは緑色の鱗とヒレを持つ、水中適応の魔神です。鉤爪が主な攻撃手段で魔法も使えませんが、口から酸を吐くという能力も持ちます。

レグラムは雄牛のものを逆さにしたような角を持つ魔神で、サイズ(大鎌)7レベル古代語魔法が特徴です。

5体のメルビズはナシェルとフラウスが引き受けました。レグラムはファーンとフレーベが。カーラは魔法で援護に徹します。


メルビズは普通に勝てますね。数こそ多いものの、ナシェルとフラウスなら同レベルの相手にそうそう負けませんよ。

フラウスはジェナートから"コズムキーパー"と"コズムガード"という魔法のヘビーメイスとスモールシールドを借りています。

これらは"門の守護者"ジクスが付与したもので、自然ならざるものに対して魔力+2というものです。微妙に制限があるのです。

この自然ならざるものとは、魔神はもちろんのことアンデッドや魔法生物もです。丁度いい具合に魔神の軍勢の構成と一緒ですね。


メルビズの酸は、魔法やブレスのような精神抵抗ではなく、回避することができます。目標値は14ですね。

ナシェルの回避力は金属鎧で盾なしとするなら9で、フラウスは同じく金属鎧とするなら11ですね。十分避けられます。

もっとも、セージ技能による《怪物判定》に失敗していたようなので、ナシェルはメルビズのデータを一切知りませんでした。

だから最初の一発目はどうしても意表をつく形になり、肩に少しかかりました。鎧が溶けるかはGM判断ですが、この場では溶けてるらしい。


回避出来るくせに、ダメージは魔法と同じくレベルでしか止められないので、当たればそこそこ痛いですね。

2人とも追加ダメージとレベルが一緒なので、20レーティングの結果がそのままダメージになります。5点ぐらい来ちゃうかも。

なお、この酸は水中で吐くと煙幕になります。ダメージは大した事ありませんが、生命抵抗に失敗すると目潰しにもなります。

水中で戦う事になったら怖い相手ですが、陸上では唯一の隠し芸であった酸も読まれ、ナシェルとフラウスに殲滅させられます。


レグラムの方はというと、10レベル戦士二人を相手にそこそこ頑張ってるようでしたね。まぁ先は見えてますけど。

サイズはファーンが捌きフレーベはハルバードのリーチを利用してザックザック攻撃しています。フレーベは微妙に足を引きずってます。

フラウスの牽制に反応したレグラムの隙を突いて、ファーンとフレーベの攻撃が入り、レグラムは後退しようとします。


その時、カーラは"ライトニング・バインド"をレグラムにかけます。網が消えた瞬間を狙えばかるくトドメをさせるそうです。

でも、カーラの魔力だといくらも保たずに感電死すると思います。まぁレグラムが抵抗できてたらディスペル出来ますけどね。

カーラの魔力を低く14と見積もって、抵抗されたとしても7振って17点。8点も抜けますね。生命点を考えると1分も保たずに死にますね

それまでにレグラムが"ディスペル・マジック"をかければ何とかなるかもしれませんが、果たしてカーラの達成値を上回れるかな。

それならいっそ、"テレポート"で脱出した方が確実ですよね。しかしこれらの脱出策はカーラの魔力に抵抗できればという前提があります(笑)


電気の網に悶え苦しむレグラムでしたが、フレーベはハルバードの一撃で胴体を両断しますちょっと感電したっぽいけど、気にしない(笑)

実は"ライトニング・バインド"をかけられている相手に触れても、ダメージを受ける事はないんですよね。ルールブックでは、ですが。

でもダメージを受けると考えてもいいとは思いますよ、そっちの方が自然だし。絡みつく電気に触れてノーダメージというのもちょっと変だし。


続いてフレーベはまだ死にきれていないメルビズ達をボロ雑巾のようにして、トドメを刺していきます。フラウスが見かねて制止します。

しかしこれは慈悲でも非道でもないのです。こうでもしないといつ復活してくるか分からない、フレーベは経験上それを知っているのです。

戦いが終わって、とりあえず仮面の魔法戦士は敵ではないと認識できました。今は、魔神と戦う事が目的だと本人も言ってますし。

魔神を滅ぼした後、この魔法戦士がファリスの正義に反するのなら討つ。それまでは、協力する。今はそうする事にします。


カーラ「今宵の戦は、モスの騎士団の勝利に終わる。だが、早晩、モスの騎士団は崩壊しよう。真実を見抜く目を持たぬがゆえに……」

そんな気になる言葉を残して、カーラは去っていきました。魔神との戦場においては、これからまた会う事になるでしょうね。


ナシェル達は上に上がり、苦戦していたとあるハーケーンの騎士を助けます。どうやら魔神達は城内に侵入しているらしい。

なんでも、篝火に"ダークネス"を撃ち込まれたんだそうです。なるほど、それで暗視を持つ魔神が有利になるんですね。

それでも結構いい感じで迎撃していたそうなのですが、魔神の中には死ぬと溶ける魔神もいたそうです。これこそ正しく魔神兵です。

不安定な魔法生物だからでしょうか、何とも雑魚っぽいですよね。賞金首にならないようにという裏事情もあるのでしょうか。


それからナシェル達は城内を移動して、魔神兵や下位魔神を狩り出していきます。結構大変な作業ですね。

しかし城内にいるのは下位魔神ばかり、上位魔神は地下にいた一体だけだったようです。明らかにおかしいですね、いくら何でも手応え無さ過ぎ。

事情を知っていればもう察しはつくでしょうが、魔神は戦力を温存しています。最初に雑魚だけを投入して連合騎士団を消耗させたのです。


歓喜に湧く連合騎士団でしたが、南の街道には1万ほどの魔神の大軍勢が控えていました。こっちが本隊です、誰も気づかなかったのか。

そしてその軍勢の先頭を切っているのは、よりにもよってブルークとリィーナ姫だったのです。さぁ、これで魔神の狙いが分かりましたね。

魔神達はブルークというモスの人間を主人に置くことで、この戦いが古来より続いてきたモスの覇権争いであると思わせたのです。

そうなっては外敵にしか発動できない竜の盟約は破棄されます。カーラの言葉通り、連合騎士団の団結は崩壊したのです。


しかも、これまでハイランドに魔神が出なかったというのは、ナシェルを擁するハイランドには極めて不利な状況です。

これではまるで、ハイランドがブルークと通じて魔神を味方にしているかのようです。ナシェルはそのダシのようなものです。

しかもアラニアやカノン、ヴァリスといった他国に手を出していたのも、将来的な侵略の意思を示しているかのようです。

見方によってはその疑惑はモスそのものへもかけられます。一連の事件は、ロードスの住人の団結を阻む魔神の謀略だったのです。


このブルークとリィーナは、ぶっちゃけ偽者です。鏡像魔神が入れ替わっているのですよ。しかしそんな事は人間には分からない。

鏡像魔神の変身は魔法ではないので、見破るのが極めて困難なのですよ。見破るには相手を殺すか、自主的に姿を明かすか、それぐらいです。

真実を見抜く目。それがないばかりに人間の団結は崩壊します。ナシェルはショックのあまりフラフラしながら、地下の抜け道から逃げます。


あの父と妹は本物なのか、ナシェルはその真実を求めてやみません。しかし真実を見抜く目を持たない以上、今は逃げるしかないのです。

暗い地下道は、まさに今のロードスとナシェルのようなものです。出口はあるのか、辿り着けるのか、何処に辿り着くのか

今まで気をしっかり持ってきたナシェルですら、この時ばかりはいつもの冷静さを欠いていました。あまりに苦しい事だから。


これが新王国暦473年、魔神戦争の始まりでした。石の王国の滅亡、スカード併合、鏡の森の蹂躙。魔神はその魔手をロードスに伸ばします。

人間に与えられた時はあまりに早く過ぎ去り、魔神の侵攻もまたあまりに早い。このままでは、絶望に囚われてしまいそうです。

しかし、同時にこの時代のロードスには希望の欠片を持つ勇者達もいました。一筋の光明を求めて、ロードスの住人達の戦いは始まったのです。





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